ウロコの鑑定……
By 武田真和
 ホテルにレプリカントが残していったと思われるウロコを、デッカードが人造動物市場みたいなところのおばちゃんに鑑定してもらうシーンはおもしろかった。
 ちゃちいあやしげな機械にモニターがついていて、ウロコを入れると(しかもビニールに入れたまま!)電子顕微鏡で見ているみたいな超拡大画像が映っちゃうのが、「そんなんありかよ」という気もするけど、とにかくも、ハッとするような斬新なビジュアルだった。
 ちなみに、このおばちゃん、ちゃんとCambojian Lady : KIMIRO HIROSHIGE とクレジットされている。
 カンボジア女性という設定のようだが、名前からすると日系みたいである。
 KIMIROはKIMIKOのまちがいのような気もする・・・。
 そのシーンで使われた画像は、実は本物の電子顕微鏡写真で、オリジナルの写真が収録されている本が出版されている。
 
「拡大像:走査型電子顕微鏡による写真」
David Scharf Magnifications: PHOTOGRAPHY WITH THE SCANNING ELECTRON MICROSCOPE (SCHOCKEN BOOKS 刊)

 著者は
ディビッド・シャーフ氏。

 この本の存在は「メイキング・オブ・ブレードランナー」(ソニー・マガジンズ 刊)で知った。
 既に年月も経っていることだから入手は難しいかと思われたが、インターネットの威力は絶大で、アメリカの古書店ネットワークで検索したら、あっけなく発見してしまった。
 早速注文。
 あっさり入手。
 A4くらいのペーパーバックで、白黒の、とてもうつくしい電子顕微鏡写真が多数のっていて、ページをめくるのが楽しいほど。
 ハードカバー版もあるようだ。
以下は、この本と映像との比較である。レーザーディスクの画面から元の写真を特定してみたのだ。
劇中、最初におばちゃんのモニターに映る画像の元になった写真がこれ。
掲載はP.90。
タイトル:Surface Study
(Gladiolus-Family Iridaceae)
Gladiola flower petal.
倍率 185x
こちら、映画の画像・・
グラジオラスの花の超アップが、真相です。
2つめにおばちゃんのモニターに映る画像の元になった写真がこれ。
掲載はP.86。
タイトル:Daisy Flowers
African Daisy(ArctotisーFamily Compositae)
Multiple unopened disc flowers o f a Dasy's center.
They open to release the pistil and stamen inside.Composite flowers.
倍率 92x
映画では、この通り・・
実はウロコでなく、ディジーの花。
その超拡大画像・・・
3つめに、おばちゃんのモニターに映る画像の元になった写真がこれ。
掲載P.87。

タイトル:Daisy Flower(Prematurely Fertilized)
African Daisy(Arctotis-Family Compositae)
Note pollen in the center of unopened disc flower.
倍率266x
映画で使われたのは、左図の中央のアップですね。
これもディジー。菊科の小さな花ですね、ディジーは。真ん中に黄色い花弁がある白い花・・。
4つめに、おばちゃんのモニターに映る画像の元になった写真がこれです。
掲載はP.94。

タイトル:Marijuana Leaf I (Cannabis Sativa-Family Moraceae)
A young leaf.
倍率222x
こんな具合に使用されました・・
これは、マリファナであります。新芽の部分のようですが、こうして観ると・・ おぞましいですな。
5つめ。最後におばちゃんのモニターに映る画像の元になった写真がこれ。
掲載はP.97。

タイトル:High Power(Cannabis Sativa-Family Moraceae)
Resin nodules on a female Marijuana flower.These nodules are located on the bract which covers and protects the developing seed.
They are gladular,capitate,multi-cellular trichomes that secrete the plant's concentrated drug.
倍率1,015x
これまた部分を活用であります。
映画にリアリティを付与する作業というのは、なかなかに大変でしょうね。真相をこのようにして羅列すると、なんだ、そうかぁ、という程度でしょうけど、作る現場では、やはり、まずこの本を見いだすトコロからスタートしているワケで、しかも、これは後述しますが、この本の著者をも映画の世界に引っ張って来てるんだもんなぁ・・・ 
 これも同じ5枚目の写真ですが、ペン(青と白)の挿しているでっぱりに注目。
 これこそが劇中、数字(製作番号)を描きくわえられたやつです。
 よーく実際の画面のものとくらべてください。

 さて、余談ですがおばちゃんはこの製作番号を、「9906947 ・XB71」と読み上げ、
「魚じゃないね、へびのウロコだね」
 と鑑定します。
 が、この番号はそんなにはっきり読めるほどおばちゃんのモニターに映し出されてないうえに、どうみても前半は「990694」とは読めないですね。
 これはこの本の著者(顕微鏡写真の撮影者)で、映画のためにこの写真に数字を描きくわえたデビット・シャーフ(ちゃんとクレジットもされているのです!)とスタッフの間に行き違いがあったせいだということです。
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