いったい幾つ
BY 山本よしふみ
 ある一つの物事を追求して掘り進めていくと、ここが底だな、最深部だなと思った所が、実はそうでなく、そこもまだ深部への途中だったという事実に出くわすコトがある。
 途中というよりは、掘って下りた場所に、いっそうに広い沃野が広がっていたりして眼がウロ〜ンとなる。
 謎を解いた筈がいっそうの謎を呼び込み、何千Kmも飛行して釈迦から逃れた筈の悟空が未だ釈迦の手の中であったというような、対するものの巨大さを味わい知らされるコトとなる。

 武田真和氏がこの項の「バック・トゥ・ザ・ヒューチャー II」を書いた辺りで、私達は実は深淵を垣間見るような思いになっていた・・・
 『製作されたスピナーは4台である』
 これを基礎にして私達は、その後の、この4台を追求していた筈であった。
 4台という根拠は、スピナーを製作したG・ウィンフィールド氏へのインタビュー記事などなどである。(「メーキング・オブ・ブレードランナー」はミニチュアのスピナーの言及は長けているものの、残念ながら実寸大スピナーについてはさほど触れていない)
 実可動する2台のスピナー。
 ワイヤーで吊られるスピナー。
 主として車内撮影を目的としたスピナー。
 この4台が一切である、全てである、と自身でそれを定説とし、これに基づき、その後の各種の情報をまとめて4台の今に至る履歴を把握していたつもりであった。
 1台の所在は判っている。これは撮影後、JAY OHRBERGに買い取られ、久しくLAにあり、途中、我が国でも展示されたりした後、フロリダのディズニーMGAパークで展示され、最近、廃棄処分! された・・・
 1台は、バットマン・カーの製作で高名なBARRIS GARAGEの手に渡り、後に日本に運ばれ、雑誌「クアント」で売りに出され、その後もこの国のどこかにある。
 3台めの所在は、今はどこにあるか不明なれども、学研が資金を出して作られた映画「クライシス2001」にてアーミーカラーに装いされて流用され、次いで「バック・トゥ・ザ・ヒューチャー II」に使われた。
 4台めは、これまた所在不明だけれども、「バック・トゥ・ザ・ヒューチャー II」でおぼろに、その姿が確認出来る・・ 妙にペッタンコな印象が残る、真っ黒に塗装されたスピナーが、それである。
 
 妖しいモヤのような疑問符が浮いてきたのは、この「バック・トゥ・ザ・ヒューチャー II」でのスピナーの登場とほぼ時期同じ頃の、米国のある車雑誌の一枚の写真を見た時である。
 前輪カバー部に注目していただきたい。
(下の写真参照)
 こんなタイプのスピナーは、前記の4台の内にはない・・・・・
 それに、ウィンフィールド氏のインタビュー記事にもあるが、氏は、映画製作が終了後にスピナーは2台を残して廃棄されたと言っているのだ・・・
 おかしいぜ、コレは・・と思っていた矢先、米国の未知の方から手紙を頂戴した。
 The original was last seen in France it appears in 1997 repainted in it's original style.
 1997年。
 パリ。
 何かのショーが開催され、そこに一台の車が展示された。
 「ホンモノ」の「リペイント」されたポリス・スピナーだ。
 そういう内容の手紙である。
 これまた妙な具合である。
 確かにパリでスピナーが展示されたという事実は、ある。
 ただし、これは『ミニチュア』のスピナーだった筈である。
 いわゆるヒーロー・スピナーという呼称で製作者からいわれていた120cm大の大型模型・・
 映画「ブレードランナー」の公開後、カナダともニューヨークともいわれているけれど、ともかく、この精緻を極めた傑作ミニチュアは盗難にあった。
 行方不明となった!
 パリで展示されたそれがコレかどうかは判らないが、サイズ的な一致から考察して、おそらく、「盗まれた」ミニチュアであろう・・・
 手紙をくださった未知の米国人は、ミニチュアと実寸のそれとを混同されているようでもある。

 ま、それはそれで謎として置いておくけれど、フルサイズの実寸のスピナーは依然として、大きな謎である。
 S・ミード氏が一台を所有しているという話もある。
 一台の車輌が姿を変えてアチャコチャに出没する、というのも考えられないではないが、ヘンじゃないか、おかしいじゃないか・・ と、武田氏と私は思ったのである。
 いったい何台が製作されたのか、何台が現存するのか・・ この基礎となる一点が判らなくなった。
 武田氏も、?
 ブレードランナー・フアン・クラブの酒井氏も、?
 山本も、?
 指を折っても計算があわない。
 
「こりゃ、4台じゃないな・・」
「5台?」
「い、いや・・」
「もっと?」
「映画製作が終わった後に・・ 何台かのスピナーが製作されたのではないかしら?」
「どこで?」
「そりゃ・・ 当然、ウィンフィールドさんの工房で・・」

 定説が覆されるのは、意外や、爽快なような快感があるのだけど、覆って結論が出たという次第ではないので、この一点が、モヤの中を手探るようで、不穏である。
 コチラの体勢は、何台あるんや? と口にしたまま、ヒックリ返った格好のままなのである。
 トンネルを出たと思った矢先にまた別のトンネルに突っ込んだような気配である。
 いまだお釈迦さんの手中にいる自分達を発見する。
 ユーリカ!
 幸いかな、暗中模索の暗闇というワケではない・・ 幾つかの小さくて仄かな光明があるにはある。
 問題の核心を担うS・ミード氏やG・ウインフィールド氏の戸口の前にまでは来ている。
 4台なのか?
 5台なのか?
 やはり4台なのか?
 実は5台なのか?
 あるいは?
 誰かにとってはどうでもいいようなコトだけれども、私どもにあっては、どうでもよくない重要事で、ある。明日が晴れるのか雨になるのかという関心以上に。
 そうではないかい、キミも?
 本項に使った写真のうち、3枚は幻の未公開フイルム「BLADE RUNNER-WORK PRINT」からの一コマだ。上の写真はリオンに撃たれたホールデン氏。ヴォークト・カンプフ検査機の上に顔をのせ、背中には撃たれたための穴が開いている……
「最終版」では、撃たれて壁の向こうに吹き飛ばされるカットで終わっているが、WORK PRINTでは、壁にぶつかり、その反動で机の側にホールデンは倒れる。
 カメラは背中から煙をあげて動かなくなったこのホールデンをしばらく映しだす。
「スピナー読本ファイナル+44」
詳しくはコチラ