一つの情景
BY 山本よしふみ
 1980年の某日、トム・サウスウェル氏はジーン・ウィンフィールド工房へ赴きました。
 スピナーを含むブレードランナーの車両製作工房です。
 青色に塗られたピカピカ新品のスピナーに向かい、トムはトレーシングペーパーをあてがい、これから彼がやらねばならないシルクスクリーン原版製作のためのサイズを測定しました。
 ドア側面、バンパー、ボデイ側面、前輪カバー・・ 
 アチコチを、トレーシングペーパーに原寸で描き移しました。
 トムの仕事は、スピナーにプリントを施す仕事でした。
 既に、彼は幾度となくR・スコット氏と打ちあわせを行なっていました。
 背部バンパーを黄色と黒のストライプに塗り分けるというのは、監督のスコット氏のアイデアでした。
 そして、今日はじめて、実物のスピナーを前にしたトムは、その塗り分けを、当初のシルクプリントからテーピング処理に換えようと決めました。
 その方が予算的にもずっと楽ですし、見栄えも良いと判断したからです。
 反射性を帯びたスコッチライトの業務用大型テープがあるコトを、トムは知っていました。それを用いればその部分の予算が1/10以下に押さえられるのです。
 各種の文字は、これは当初の予定通り、シルクプリントで行なうコトも、その場で決めました。
 米国で緊急時に使う数字として「911」があります。日本でいうトコロの「119」に相当します。
 トムは、2017年の米国ではこの数字が「995」に変更されているという架空の設定を行ないました。
 監督のリドリーはそのアイデアに対し、ただの一言、「エクセレント!」と告げました。
「漢字」をプリントするコトに関しては、トムも監督も同一意見でした。
 LAのチャイナタウンを持ち出すまでもなく、東洋の漢字文化の浸透は80年代の米国においても顕著でした。
 その文字が直接に読めなくとも、例えば「警察」という赤い文字(カタチ)があれば、それは一種のアイコンとして、それが何を指すか明白であろうと、位置づけていました。
 こうして、予定通り、「POLICE 警察」がプリントされました。
 ガラスのドアには「禁止進入」が刷られました。
 映画公開時に、ERTL(アーテル)社から販売されたダイキャストのミニカーは、今回、写真でご紹介する通り、2種類のパッケージが存在します。
 4台をセットにしたモノと単体でのモノ。
 この合計5品目です。
 生産数については2000台という説と3000台という説の2つがありますが、確かな数値ではありません。こういうコトはメーカーは公表しませんからね。
 しかしながらダイキャスト・ミニカーの採算ベースを考えると、3000ケ以上を生産しないと利益が出てこないのではないでしょうか ???
 とはいえ、現状、市場にさほど流通していないという事実もあります。
 それゆえ高値で売買されているワケでもあり、この一点を考えると、実際は2000ケ程度が作られただけではないのか、とも思われるのですが・・ 本当の生産数に関しては、まったくの不明であります。

 ちなみに、この手の玩具は通常はメイド・イン・チャイナというコトになるのですが、何と、このスピナーのミニカー達はメイド・イン・USA!
 アイオワのDVERS VILLEにあったERTLの自社工場で製作されています。
「スピナー読本ファイナル+44」
詳しくはコチラ