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アポロサターン打ち上げの複雑で精緻なアーム達の動き…。
今に残る発射時の記録映像を見ると、ホント見事で、優雅さすら感じられる。
30数階相当の高層マンションに匹敵するデカくて高いのが、1つの生命体のように躍動してサターンロケットを宙に浮かせていくワザの凄さは、ただもう圧巻。
スクリーン上の映像では伝わらないけども、実際にはその瞬間、数キロの範囲で衝撃と重低音が響き(サターンロケットの最初の点火試験では周辺町村で多数のガラスが割れた)わたって身体を振動させているから、リフトアップの光景を目の当たりにした人の感動はズイブンと大きかったろう。
事実、多くの人が無自覚な情動に涙をこぼしたという。
「月の記憶」の著者アンドリュー・スミスの記述によれば、アポロ11号の打ち上げを目撃した100万人が泣いたという…。
なんだか理性では計れない性質の強い衝動が沸き上がって、身震いしたという…。重低音が身体で共振して、いわば1ケの人間スピーカーみたいになっちゃうようなのだ。
残念ながら、この100万の涙は記録にとられていないから… 立証は出来ない。
けれど、たぶんに、そうであったろうとは… 思える。人間が他の天体に向けて出発しようとしている… それだけで感動なのだ。それを直に目撃して重低音の直撃を受けたら… 気持ちは尋常でなく昂ぶったと思える。
写真:TVC-15 Apollonia Paper-Modelの模型の一部 |
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このページでは、そのサターンロケット打ち上げで重要な役割をはたした赤色の塔-LUT(ランチ・アンビカル・タワー)の、アームをちょっと断片的ながら、紹介する。
アンビカルというのは、日本語で云えば「へその尾」だ。
『打ち上げ・へその尾・タワー』
日本語にまだチャンと訳されていないのが、このランチ・アンビカル・タワーだけども、意味するところは判ると思う。
いわば、LUTはアポロサターンの母体というワケなのだ。
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こうして、模型ながら… アームを博物学的に並べて見ると… カッコ良さが際立ち見える。
それぞれが目的あるがためのカタチであって、無駄はない。過剰もない。
徹底の原則に基づいたカタチ。
するとオモシロイ事に、一種の"美"が生じる。
LUT(発射塔)とアポロサターンの佇まいのカッコ良さは、たぶんにそこから生じていると思われる。
機能美と云ってしまえばそれだけの事ながら、ホリゾント、他の天体に行くという背景となる目的をからめると、他ではし決してなし得ないカタチとして知らず昇華されたものという事に気づかされる。
ある意味では無骨極まりないけれども、ある眼で見れば、際立って美しい。 |
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LUTから伸び、アポロサターンとつながったアームは全部で10本ある。
それに付随しての各種燃料パイプ、電装パイプの類い多々。
最上階の姿勢堅持用のアームには番号はないが、他9本のアームには下側から順に番号がふられてた。
いずれも人が通れる通路でもある。 |
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LUT本体はサターンロケットの製作と共に作られたが、アーム部分とそれに付随する装置の設計・取り付けは、サターンの仕様が最終的に固まってから行われた。
だから、後付け。
そのために、場合により同じフロアでありながらアームへのアクセスに階段を要するといった整合性をとるための工作が随所で行われている。
上へちょっと上がったり、下にちょいと下がるというような事になった。
これがLUTのカタチをいっそうに複雑に見せる、1つの要因ともなっている。 |
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2番アーム。
第1段ロケットたるS-ICへ、上部からヘリウム等のエネルギー補充をするパイプ類を導く。
ヘリウムはS-ICの5基のF-1エンジンの触媒、液体酸素(1460トン搭載)の温度上昇を抑制する役を主に担う。
F-1エンジンはその液体酸素とRP-1と呼ばれるケロシン系燃焼剤(630トン搭載)を触れあわせる事で爆発燃焼するが、いずれも気化率が高い。よって、打ち上げ直前まで常態的にパイプを通じてエネルギーは補充され続ける。この辺りが自動車の単純な燃焼機関とは大きく一線を化す。
はなはだ制御が難しい。 |
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打ち上げ前からサターンロケットから盛大に"煙"があがるシーンを映像で見られるが、それの多くは気化した各種エネルギーが外に出ている様子であったり、冷却で発生する蒸気だ。
気化物がロケット内に充満すると大変な事になるから、サターンロケットには随所に、このためのヴェントがある。
それが"煙"、"蒸気"と見えている。いわば、"穴"を開けておいて、そこから気化分を放出させているワケだ。
でもって同時に、足りなくなったモノを常に休みなく補充し続けなきゃいけない。
小さな穴が開いてパンクしてる自転車のタイヤに空気を懸命に送り込んでるようなアンバイなのが、ロケットの知られざるカタチだ。 |
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3番アームと姿勢堅持アームは打ち上げ前にサターンから外され、LUTに固定される。
姿勢堅持アームは最上階にあるクレーンで引き上げる。
3番アームはサターンロケットのインターステージ部分内に入るためのアクセス通路。燃料等のパイプはない。 |
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3番以外のアームは、コンピュータ制御でそれぞれ圧搾空気で作動し、ドンピシャのタイミングでサターンから離れてLUT側に可動し、受け入れフックで固定されるが、万が一を考慮して、ワイヤーで引けるよう高速ウインチが設置されて、2重の安全策が講じられていた。
アームのあるフロアには作動を確認する監視カメラ(白黒映像)が置かれている。
(左の写真の左側)
またそれとは別に記録用の16mmムーヴィカメラが複数設置されていた。当然にすべて遠隔操作。 |
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アーム折りたたみの装置達
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1番アームから8番アームまでは、すべてLUT本体のサイド-1(サターンロケット側)に90度に折れ、9番のクルーアクセスアームのみが180度動いてサイド-4へ移動した。
その9番アームと同じフロア(LEBEL-320)に基底部があるサターンロケット姿勢制御保持アームは、役割が終了すると上方に引き上げられLUT本体に固定される。
矢印は、9番アーム(飛行士搭乗)の通路。傾斜しているのがよく判る。
写真:NASA
射場たる39A発射台に移動中のアポロ15号 |
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写真:NASA
姿勢保持アームが引き上げられた状態のアポロ16号。 |
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写真:姿勢保持アームがアポロサターンに連動しているカタチの模型。
ちなみにこの模型はアポロ8号を再現。
アポロといえば11号という事になるのだろうけども、人類史上初めて地球の圏外へ出て月を周回した"乗り物"として、アポロ8号はもっともっと、賞賛されてイイと思う。ジュール・ヴェルヌの夢想が現実になったのも、このアポロ8号だ。 |
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LUTはけっして人が住まう場所ではなくって、あくまでもアポロを出産する母体としての役割を担っている。
したがって、各フロア、各アームの床は無駄を省かれ、金網(むろん頑丈ではあるけど)式なのだ…。
板としてではなく、面として多数の穴が開いているワケだから、サターンロケットへの点火による爆風の衝撃はこれで大きく緩和する。
けれどそのために… 全部がそうではないけども、多くは、下が見える。横も見える。スカスカな感じ。
なので、高所恐怖の人にはとても務まらない"職場"であった。
ロケットが好き♡、だけでは、ダメなのだ…。 |
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写真:NASA
上の写真とこれはアポロ14号での光景。
左は傾斜した9番通路でのヒトコマ。非常に珍しい写真なのだけど、お判りかしら?
実はスカートの女性が、この9番通路にいるのだ。ちょっと他の人と重なってるから判じにくいけども…。
おそらくは視察に来たであろう政府高官の秘書か、髪の短さから… 空軍だかの武官か何かだろうと推測するけども、LUTに女性がいる写真は、おそらくこれのみではなかろうか。 |
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地上から100m以上の高所での作業…。
第2段ロケットS-IIの上、インターステージ付近で仕事してるスタッフ。
紹介のため、あえて色をつけてる。
複数のパイプ類をジョイントする工作に従事している姿なれど… なにしろ、むきだしの空間だ。ううむ…。
写真:NASA
1967年に打ち上げられた最初のサターンロケット(無人)での設置作業の様子。 |
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LUTのいわばハイライト部分たる9番アーム。
アポロ司令船に乗り組むための、通称ホワイトルームを先端に備える。
ここではペーパーモデルの製作過程を通じて、そのカタチを紹介する。
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工作中の模型。
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この9番アームと8番は隣接する。
8番アームは司令船本体に結ばれる。 |
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2番、3番、4番付近。 |
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5番アームと通路。 |
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6番アームと通路。
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7番アーム。 |
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アーム取り付け前のLUT下部付近。 |
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アーム取り付け前のLEBEL 20付近。
中央にエレベーターと階段。天井周辺にケーブルやパイプがはう。 |
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5番、6番アームとアポロサターン。 |