夜更けにiBook
 東京のいつものホテルの一室でちょっと仕事してたら、ちょうど、iBookのTV-CMが流れたので慌ててデジタルカメラのシャッターを押したけど・・ ブレちゃった。

 何を隠そう、コンピュータを出張に持ちだしたのは今回が初めてであって、DVDも見られる仕様ゆえ、出張前、例えば、新幹線の中で何ぞ映画でも見るかと、お手持ちDVDの、まだ封を切ってない新品ソフトの何本かの内どれを持ちだそうなどと、子供みたいな喜色を浮かせてチョイスを楽しんだりもしたのであったけど。
 結局、往路帰路共に車内で行為に及ぶに至らず、されど、都内で合流した知友から、かねて買ってくれておいたDVDを拝受し、ホテルの深夜、というより極めて朝に近い時間に見遣って、いやはや、コレはイイ、コレはたのちぃ、喜色を満艦にかざしてベッドに横たわったまま足をバタバタさせたりはした・・。

「BRYAN FERRY IN CONCERT」というDVD。
 収録は昨年の3月、パリのLe Grand Rex。
 あまり広くもない舞台上に13人のオーケストラ!
 ォオ、オォ〜、皆さんタキシード、皆さんけっこうハゲてらっしゃって、シックでエレガントでいい感じ。
 右手に女性が5人。ハープと弦楽奏者の面々なれど、何でやと訝しむホドに皆、美人。
 その美女5名が肌もあらわな黒のタンクトッピ〜なモードで、むろん、彼女らは若くって、当然にセクシーでエレガントだから、コジャリでない大人の女って感じでコレが超絶的に・・ いい。
 しかも演奏の技巧たるやブラボーと喝采したくなる程にうまくって、冒頭からしてこのコンサートの期待が否応もなくふくれてくるのだけど、さぁさぁ、出てきたよ。
 1936年作品のかのフレッド・アステア主演のミュージカルの名曲「The Way You Look Tonight」の前奏と共に、アイヤ〜〜、上はノータイのタキシード、下半身はレザーパンツというイデタチのブライアン。
 アルバム「TAXI」以来、動いてるトコロは久々に見る大男ブライアン。
 50歳を越えて、イヤほんまにイイ男になったなぁ・・ なんて感想を浮かせるスキも与えず、彼がシックに唄いだすと、我が体内のROXY MUSIC遍歴が走馬灯のようにクルクル逆巻き渦巻いて、翌朝10時に打ち合わせゆえエエ加減に眠らなきゃなんて現実は遠退いちゃう。

 iBook本体内蔵のスピーカーはなるほどに左右別れのステレオなれど、大きさが大きさゆえ、イイ音とはお世辞にも言えないから、こうなりゃ本気で聞くぞとばかりヘッドフォン取り出した。
 たちまち音は劇的にバギュ〜〜ンと良くなり音量もあがり、我がヘッドはたちまちサウンド・ユニバースの只中へと飛翔した。
 眼は画面に喰い入り、時間は消失した。
 こんな至福をこんな場所で味わえるってのも一重にiBookのおかげなのよね、買ってよかった、ヤレ嬉しや、とは口にこそしないけど、嬉しさの根底を乳白なiBookが担っているコトは拭いようもない事実。
 我がアイラブなMacintoshとブライアンがこうして融合して眼前にあるというコトが何やら奇妙にも思え、喜悦が二乗する・・

 30年前、最初に聞き知ったブライアンことROXY MUSICはケッタイなアバンギャルドな装いと得体の知れぬ音でもって我が魂を魅了してくれたもんだったが、徐々に、ブライアンはよりスタンダードな方向へと足を向けてった。
 当然の帰結。
 その方向がまた我が嗜好に符合して、魅惑はいつまでも光輝を失わない・・

 ジョン・レノンが馬鹿野郎な凶弾に倒れた後、ブライアンはステージで彼ジョンの「Jeolous Guy」を持ち歌とするようになる。
 嫉妬に燃え狂う男の、悲痛な歌だ。
 アルバム「MUSIQUE Roxy-The High Road」に収録されたブライアンのその熱唱は20世紀末におけるボーカルの一つの頂点とも思われたけれど、こたびの久々の公演にてもブライアンはそれを披露した。
 彼がそれを唄うのをライブとして眼にするのはコレがはじめてだ・・・。
 いみじくも今野雄二が指摘する通り、これはブライアン・フェリーという「ボーカリスト」のトレードマークな歌曲とも思われる。
 メロディを彼が口笛でもって奏で出すや私は小さな金縛りめいた感触すらおぼえる。
 が、このDVDに収録された全16曲のうち、私が身を乗り出すホドな痺れを覚えさせられたのは、「The Only Face」だった。
 これはCD「マムーナ」に収録された、これまた名曲に価する一品なれど、ブライアン・フェリー自身のピアノでもって奏でられるメロディと詩(むろんに悲恋を歌っている次第だが)の卓越っぷりは、眼をみはらさせられる。
 彼の歌は概ね全て悲恋で、ゆえに悲痛で暗いモノなのだけど、波のうねりのようなメロディとリズムは相反して、何やら高みに連れ去られるような昂悦がある・・ 
 歌声は下方に沈みつつもメロディは上昇飛翔していくといったマッタクもって矛盾する感触がブライアンにはある。
 そこをしてブライアン・フェリーをブライアン・フェリーたらしめておるワケだけれども、プラスとマイナスが作用すれば物体は宙に浮くという、その巧妙絶妙なワンポイントを現出させうるのを歌世界で可能たらしめたのが彼であると、私はこたびのDVDを眺めつつ聞きつつ、ため息まじり、いよいよ確信としてその気分を尖鋭にさせたのであった。
 明と暗、二層の極限の端境(はざかい)を縫合し、その縫いしろを甘美なものに錬金させうるのがブライアン・フェリーという「ボーカリスト」である。

 だから余計・・ 日本公演を切望したい。
 常用のホテルの窓からは、千鳥が淵の樹木の向こう、武道館の緑青な屋根が間近に見えている。
 場所はそこに願いたい。

 全16曲が終った頃、ホテルの窓辺はすっかり明るくなっていた。
 やべ〜〜〜。
 私はiBookのスイッチを切り毛布にくるまった。
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