忘れっぽくて困るよな
 人間というのはどうしてこうも「忘れっぽい」のだろう?
 ぁ、いや、この場合、私がと置き換えた方がいいか・・
 私は、とにかく「忘れっぽい」のである。

 例えば、昨日のコトだけど、買い物に出かけようと車を出し、数分走らせてからサイフを持って出ていないのに気づいた。
 サイフには免許証なんぞも入っているからタイヘンだ。
 あわてて取っ返し、サイフをお尻のポッケにねじ込んで、また車を走らせたら・・ 今度は、家に駆け戻った時に手にしていた携帯電話を置いてきてしまった。
「アチャァー」
 と、呟きつつ、まぁ、いいや携帯なんか・・ と車をそのまま走行させたが、ハタと気づいた。
「オレ・・ 何を買いに出かけたんだっけ?」
 数点の必需品を購入予定で、その内の二点は覚えているのだが、後のもう一点が、どうしても思い出せない。
 なんかスグに入用なモノだというコトは判っているのだが、それが何だったのか皆目判らない。
 結局、それが判らないままに帰宅し、部屋に入って椅子に腰かけた途端、
「ぁ、プリンターのインクカセット!」
 突然、思い出すのである・・
 もう、最低。
 たぶん、似たような経験はアナタにもあるハズだ。

 こんな次第ゆえ、必需の消耗品というのはたいがい複数を同時に買い求めるというのをヘキとしている。
 タバコも酒もインクカセットもビデオテープもポストイットも。アレもコレも・・・

 さすがに、単行本は一冊しか買いはしないけど、これも油断すると、誤って、2冊めを購入するというていたらくをしでかしてしまう。
 同一タイトルの文庫本で連記モノが、このていたらくに該当するようである。
 例えば、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズなんかで、私は失敗する。
 文庫判で、これは確か40冊以上の分量がある。
 出張時の新幹線の中で読んだりするにはピッタリであるから、出張の前に本屋で一冊求めるというコトになる。
 ところが、タイトルをしっかり記憶していない。
「街道をゆく- 大徳寺散歩・中津・宇佐のみち」
 とか、
「街道をゆく- 十津川街道」
 とか、
「街道をゆく- 近江散歩・奈良散歩」
 とかとか・・ 本屋のコーナーにはズラリと「街道をゆく・シリーズ」が置かれていて、これはチト困る。
 読んだようであり、読んでないようでもあるアヤフヤのまま、店頭でパラパラとページをめくってみるのだが、ハッキリと覚えているモノとそうでないモノとがあって、
「???」
 購入に躊躇する。
 迷った挙げ句に一冊を買い求め、動き出した新幹線の中で数ページを読み進める内に、ハタと、ぁあ、これは読んだ、と気づかされたりする。
 また失敗したと苦々しく自嘲しつつ、これから東京までの数時間をさてどうやってうっちゃろうかと悩んだりする。
 結局、かつて読んだその本を拾い読みして、新たな発見なんぞもするのだけど、新幹線の中での読書というのは、どうも頭に定着しないようである。
 東京に着いて席を立った一瞬に、読んだ内容をもう思い出せない・・・
 そんな次第で「街道をゆく- 島原・天草の諸道」が二冊あり、「街道をゆく- 叡山の諸道」が三冊、本棚に並んでいたりする。
 困ったもんだ。
 高名な作家の失敗談として、奥さんと買い物に出かけ、奥さんを忘れて帰ってきた、というのがあって、ちょっと笑わさせられるけど、健忘というのは、おかしなもんであるな。
 一方で、「忘れる」コトがなければ、これまたヤッカイなのではあるまいか。
 例えば、私が誰かと交際しようとしてフラれたとする。
「アンタは好かんタコや」
 面と向かって言われたとする。
 こちらとしては、このシトは生涯で最良のオンナだ、などと思い込んでいる。
 で、このセリフ。
 これはまぁ、ガックリくるよな。
 ガックリ、ションボリ、眼は空ろ・・ 落ち込んで落ち込んで、ヤケ酒飲んでもウサ晴れず・・
 でも、まぁ、数週間、数ヶ月、数年、経てば、痛恨の一撃の痛みは薄れてくるわいな。
 時間がとがった部分を少しづつ侵食して、悲しい色を薄めてくれる・・ で、その頃にはきっと、新しい恋が芽生えて、このシトこそが生涯で最良のオンナだぁ、などとほざいたりスル。

 人間は、忘れなきゃどうしようもない性質のモノと忘れちゃアカン性質のモノとの狭間で、ユーラユーラと漂うている、といった次第なのかな。
 それがヒューマンでっせ、と賢人が言いそうではあるけど、良性の「忘れる」と悪性の「健忘」との比率が、サイキン、私の中ではちょっとメチャな配分だから困るのだ。
 大切な、忘れちゃいけないコトをドンドン忘れ、一方で、けっして恋愛関係には至らないであろう、言ってみりゃ、覚えてたってナァ〜ンのイミもトクもない、オンナのコの誕生日なんかは、コレはしっかり頭に刻み込まれていたりする。それも複数。多数。いっぱい。

 困ったもんである。
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