石を売る
  広告代理の会社をやっているF君がやって来た。
 某所の某商店街の若手の経営者らが集い、商店街近隣の公園で、フリーマーケットをやろうではないかという企画話である。
 昨今、フリーマーケットが流行りのように蔓延しているが、たいがい、ターゲット層が10代末から20代前半か、あるいは50代から60代といった感じで偏りがあり、30代が納得出来るようなフリーマーケットがない、これがアカンというワケではないけれど、商店街としては、一つ発奮し、30代から40代が、参加出来る「濃い」内容のものが出来はしないか、売買主体でなく、例えば、ミニチュアカー一つで店主と客が熱く語れる場が作れないか・・ と、まぁ、そういった基本主旨である。
「で、なんか、出店しておくれよ・・」
というコトである。

 そこで、居合わせた友達のアキラ君と二人、どんな店として出店するかを、頭を傾げて考えた。
 既存のうちの製品やら余剰の模型を並べるもよいけれど、されど、工夫としては今一つとも思われ、アレソレと熟考し、数分後、一つの結論を導いた。

 石を売ろうと思うのだ。
 石屋になろうというのだ。
 石屋に。
 墓石なんぞでは、ない。
 河川敷で拾ってきた石を並べるのだ。

 原点は、むろん、つげ義春氏の傑作「無能の人」にある。
 あの主人公と、あの石とを、そのまま公園に持ち込み、さも零落した気配でもって終日坐っているというのはどうだろう・・ 
 手拭いを防寒用として頭に使い、貧寒極まった風情でもって座り、並べた石に客が興味をもてば、石のうんちくをのたまい、
「これは、旭川の土手で採取しました。花崗岩です。名前は、孤舟です・・」
 ってなコトを言うてみるというのは、どうだろう・・
 岡山には旭川、吉井川、高梁川、足守川、などなどの河川がある。
 岡山市民ならマズ間違いなく知っているであろう川である。
 その川から採取した石を一同にして、売るのである。
 それぞれ名をつけて。
「孤舟」
「夕映え」
「宿痾」
「浮雲」
 アレコレ、形や色に見合う、それらしい名を・・・

「福袋なんかもイイッスよ」
 アキラ君はそうのたまう。
 なるほど、いいアイデアだ。
 ズッシリ重い福袋。
 何が入っているか、開封が楽しみではないか・・
「でも、その場で開ける人がいるでしょ・・ そんな人は、中に石が入ってるのを見て、怒るかも」
「文字通り・・ 石を投げられるかも、だな」

 石を売る。
 元手なしで仕入れ、名をつけ、並べ、売る・・
 一ケも売れぬだろう、と予測する。
 ただもう、つげ義春マンガの模倣というだけの発想である。
 あのマンガを読んだ者なら、ハハァ〜ン、と頷き笑う、いわば、その笑いを誘いがたいがためだけに存在する石屋である。
 そんな店がフリーマーケットに似合うかどうか定かでないけれど、店そのものよりも、この馬鹿げた店を構えるために、旭川や吉井川や高梁川へ出向くのは、コレはさぞや楽しいであろうとは予感される。
 一応、河原で石を選ぶワケだし、形、色、硬さ、大きさ、アレコレ、一ケ一ケ吟味したりせねばならんだろう・・ 川による石の相違もあるやもしれぬ。思わぬ発見があるやもしれぬ。
 川に出向く効能をあげていると、
「百間川という川もありますぜ」
 F君が一声し、たちまちに爆笑となった。
 百間川といのは、自然の川ではない。
 これは、岡山市内を流れる旭川が増水したさいに、その水量を逃がすための放水路で、いわば予備の河川である。
 江戸時代に作られたもので、全長にして13Km、今も7〜10年に一度か二度、大量の雨による増水時、水門が開けられて用立てられる。
 川幅が百間(ひゃっけん)ゆえ、この呼称で呼ばれている(らしい)。
 そんな特殊な川であるから、最近は市営の公園やテニス・コートが設置されていたりもし、はたから見ると、コレは川のようで川ではないがレッキとした川ではあるんだな、という感触としてアイマイな所に位置づけられる。
 ここの石を拾い、フリーマーケットにて、風雅な石でごじゃいます、とやるコトを思うと、否応もなく可笑しい。
「何、考えてんだよぅ!」
 と、マジな人から叱られそうな程に、コレは可笑しい。
 けれど、可笑しいがゆえに、我が「石屋」には必要なアイテムかもネと思いもする。
『商い』の基本がここにはあるんではないかというコトもチラ〜と浮いたりもする。
 採取のために車を出すから、そのガソリン代などの経費はかかれども、原材料費はナイ。
 先程も書いたけど、元手なしでアル。
 らしい、それっぽい、カタチやイロの石に名を与え、プライスをつける・・ これは一種の錬金術だ。
 オモチロイ。
 そのマーケットの会場からホンの1キロと歩まぬ先にある百間川の石を、正々堂々と売り出すんだからオモチロイ・・
 売れずとも、少なくとも笑いを得るコトは出来よう。
 青空の下のフリーマーケットでの笑い。
 呵々と大笑してもらえるとアリガタイ。
 そこが値打ちかな。
(C) つげ義春/日本文芸社
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