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雨ざらしの痛切 さよならスピナー
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| Photo by James Ebenhoch |
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一本の映画を作る時には、コト細やかにアレやらコレやらの取り決めがなされるらしい。
米国での話である。
契約書がソレやらナニやらの局面に持ち出されるらしい。
例えば、一つのプロップのようなモノにまで、その契約は適用されというコトらしい。
「撮影後は廃棄処分」
映画「ブレードランナー」のお約束の一つとして、各種プロップの命運は契約により、そう定めらていたようである。
たとえば、スピナーを含むこの映画の撮影用の車輌27台を制作したG・ウィンフィールド工房と制作会社との取り決めの条項などは、その一例である。
実際、撮影終了後にほとんどの車は破棄され、その中にはかのセバスチャン・バンも含まれている。
まぁ、それでも・・ 契約には抜け道があるのだろう。幾台かの車が今に残り、見せ物としてショーに使われたり、Back To The Future 2で、背景の車輌として使われたり、もした・・ |
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1986
Photo by Yoshifumi Yamamoto
"my cute niece girl ATUKO"
"姪の厚子ちゃん"
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1台のスピナーがある。
これが最初に我が国で紹介されたのはもう10年以上前。
1986年、当時に渡米していた間宮尚彦氏が雑誌「宇宙船」に掲載した記事がそれである。
スピナーの情報に関しては皆目ナニもない時点での、有力にして唯一といっていい記事であった。
撮影終了後、G・ウィンフィールド工房(映画の車輌専門の製作会社)からスピナーを買い取ったのは、LAのJay Ohrberg Show Carsという映画の自動車を展示したり、レンタルする会社である。
スピナーはしばらくこのJ.O.S.Cに展示され、海を渡って日本にやって来た。
1987年。
「ジーン・ウィンフィールドの世界」という展示会である。ただし、この日本における展示会の名前は「ジーン・ウィンフィールドの世界」は副題であって、本題は「世界のオモシロ自動車ショー」という感じのなさけないモノであった・・・
大阪、福岡とこのショーは巡演され、スピナーはまた米国へと返される。
(我が国で展示され、やがて売りに出されるコトになるスピナーは、これとは別の車輌である)
米国へ戻ってから、このスピナーがその後どこへ行ったかというと、先のJ.O.S.Cが休眠会社になり、所有の車輌をアチコチに売却してしまった・・
スピナーとデッカード・セダン(警察車両タイプ)は共に、フロリダのウオルト・ディズニー・ワールド・フロリダ USA が買った。
ここは俗には「ディズニーMGMパーク」という。
広大な敷地面積のあるテーマ・パークだ。
1991年か92年頃にここに売却されたようである。
このコトは「スピナー読本」にも武田氏が書いている。
(Back To The Future 2 の出演はここに来る直前のコトだ)
以後、このスピナーは小さな湖のほとりの、芝が綺麗に生え揃った屋外に安置されたまま現在にまで至っていた・・・・・・
それゆえ、渡米したら、一度はここを訪ねてみたいもんだわい、ホホホっ、て思っていたりした。
眼の前の綺麗な女のコに「一緒にイッチャお〜よぅ」などと、半ばのマジで言うておった。
ところが、数週間前、哀しい知らせがあった。
米国の知人から一通のメールが来た。 |
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1986
photo by Naohiko Mamiya
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1999
photo by James Ebenhoch
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I go often to the Disney MGM park and take the backlot tour ride
to see the Blade Runner cars they had on display.
I would go often just to see the Spinner.
But recently I noticed the cars were not there.
I found out that they TRASHED THEM!!!
I guess they were made of wood and they started to notice they
were rotting, so instead of restoring them they trashed them.
Had I known earlier I would have bought them from Disney.
Oh well a fantastic piece of art trashed for good.
(訳文)
よくディズニーMGMパークに行って、陳列されていたブレードランナーを見て回わっていました。
スピナーを観るためだけにいっていたのですが、最近スピナーがなくなっているのに気づきました。
なんと「廃棄してしまった」んだそうです!!!!
おそらく木製だったために腐り始めてしまったことに気づいたのでしょう、
補修する代わりに捨ててしまったのです。
もし早くにそのことを聞いていればディズニーから買い受けたのに。
あぁ、1つのすばらしい芸術作品が永遠に失われてしまいました。
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廃棄 だと・・
廃棄というのは、『無用なモノとして捨てるコト』だぞ。
無用!というコトだぞ。
無用といのは、広辞苑にも書いてあるけど、『用事のないこと』、『いらないこと』、『役に立たないこと』、だぞ。
このメールを受け取った時、この米国のJamesちゃんには、
「そんなアホな。きっとソルジャーっていうしょーもない映画に流用するから、ちょっと持って行ってるダケやろ」
って意味の返事を書いたのだけど・・
そのJamesちゃんが、
「だったら、この写真、見てみ〜や」
と、送ってくれたのが、ここに掲載する写真である(一部だけど)・・
見て、愕然!
眼をパチクリやって驚愕!
アットサップライズだ!
フロリダの強い日差しゆえにか・・ 雨ざらしの 痛切やら哀切がにじむようじゃないか、これは!
室内のヘッドレストはちぎれて無くなり、ボディの塗装は薄れ、何やらキチャない気配が濃厚である。
錆びてうらぶれた気配が濃厚にして激烈である。
パークでお客の眼に晒すにはナルホドしのびない風情では、ある・・・
ディズニーはどうやら、このスピナーを荒涼とした残骸と見なしたようである。
雨ざらしにしといてナンやぁ!、ってクレームを申し上げたいトコロだけど、どうやら、Jamesちゃんの言うコトはホンマのような感じである。
Jamesがディズニーに問い合わせたトコロ、
「abandonment」との返事である。
この単語が不明な方は辞書でひいてみたまえ。冷たい感触の日本語がそこに添えられているよ・・
捨てられた、のである。
スピナーが・・・
いつかの日にエキスポランドで見たあのスピナーが。
映画が撮られて17年経過した今年、ついこの前に。
破砕機でクチャっと潰されたか、地に埋められたか・・ して。 |
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片方がちぎれたヘッドレスト・・
Photo by James Ebenhoch |
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雨ざらしゆえに、ボロボロのヨレヨレ・・ 弾痕?まである・・
Photo by James Ebenhoch |
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Jamesちゃんのメールの末尾にもう一度、注目していただきたい。
"あぁ、1つのすばらしい芸術作品が永遠に失われてしまいました"
二の句のない痛切な一語である。
共感と連帯に肩抱きあうような悲痛である。
時期同じ頃、別の米国人からも、やはり同じディズニーパークのこの異変についての問い合わせがあった。
私達は、どうやら失ったようである・・
人類にとっての世界遺産がそうであるように、少なくとも、心のヒダに染み込んでいたであろう1台の、羨望であり郷愁であり憧憬であった「実在する車」が永遠に失われたのだ。
そうではないかね?
もはや私はオンナ友達とデートがてらにスピナーを見に行くコトは不可能となった。
実物のスピナーを前にして「ブレードランナー」を語るコトは、もう出来ない。デッカードを真似て、
「Say kiss me」
と、やるコトが出来ない。
カタチとしてのスピナーはもう模型の中にしかない。
たぶん、これは、悲劇だ……
貴重さは失った後でジンワリとやってくる。いつだってそうだけども……
愛する人にふいに去られたような失意に、今日、私は沈む。
By Yoshifumi Yamamoto
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