幸せは散歩中にみつける
 S県に42歳になる知人がいる。
 女性の髪に触れる職業で、店を持っている。
 とてもそんな年齢にはみえない人だけど、ともかく年齢は42歳である。
 数年前に悲しいコトがあって離婚し、店は彼一人で運営している。
 2年に一度か、1年に一度くらいの割合でこの人に会うと、きまって、いつも変わらない、照れたような笑みを浮べていて、歳月の変容をおぼえない。
 離婚の直後だったか、この人は単身でアメリカに出向き、グレッグ・ジーンさんの工房を訪ねて、私を驚かせたりもした。グレッグ・ジーンという人は、映画の特撮に使うミニチュアの製作者で、今更にここで紹介するコトはあるまい。
 知人は自作した小物を持参してグレッグにプレゼントし、グレッグは彼に、ある映画で使われた稀少なプロップをプレセントした。
 知人は一見穏やかな人なれど、外見と行動は比例はしない・・・
 映画「2001年・宇宙の旅」をこよなく愛する彼は、劇中に登場する宇宙服の、その腕のワッペンを、図柄のままにガラスに刻印したりも、した。
 ガラス工芸の職人さんに依頼して、それを作ってもらった次第なのだが、むろん、安く出来ようハズはない。
 麗華な工芸品は3枚が作られ、一枚は彼が、一枚はLAの彼の友人が所有し・・ もう一枚はここに、ある。
 この人は、タトゥや、ボディ・ピアスといった、私の知らない世界を幾つか知っていて、その識見に眼を瞠らさせられたり、時に、疾風のような勢いでもっての実施敢行に声を呑まさせられたりする。
 耳や鼻のピアスはおろか、舌の中央にまで、この人は金の小さな球を入れていて、会えば、きまって、チロリとベロを出して見せてくれたりする。
「痛い、それ?」
「いや、痛くないですよ」
 そういったモノを身体に仕込む心積りのない私の、初歩的好奇心を一歩も出ない愚問に、彼は笑みつつ、そう答える。
 下半身のある部分にも、金だか何かの小球が埋められているのだが、
「見せましょうか?」
「ぇ、いや、いいや」
 未だ、見たコトはない・・

 この夏の某日、この知人に2年ぶりに再会し、やはり変わらない笑みをこぼす人ではあったけれど、ちょっとだけ太ったような感じであった。
 そのコトを言うと、
「実は、再婚しました」
 と、またもや意表をつかれてしまった。
「相手は?」
「女性です」
「判っとるがな、んなコタァ」
 聞けばお相手は23歳だそうである。
 42対23・・・
「ほとんど犯罪に近い年差じゃないか」
 私は嫉妬めいた火が燃え上がるのを禁じえない。
「恋愛したの?」
「恋愛したのです」
「はは〜〜ん、美容室で客に手をつけたやろ!?」
「違うんですよ・・」
 彼は言う。
 エヘンと小さく咳払いし、犬の散歩で知りあったんです、と言う。
 いつもの散歩道で、毎日、お互い、犬を散歩させてたんです。
 そう、のたまう。
「アッチとコッチから、毎日・・」
「ええ、ほぼ毎日、アッチとコッチから歩いていって・・」
 私は聞きながらポリポリ頭をかく。
 安物のテレビドラマでも、そんな出会いは設定はしない、ぞ・・・・
 もはや状況を仔細に聞くまでもない。
 ドラマのパターンとしてのシーンがアリアリと想像できちゃう。
 毎日すれ違い、その内、お辞儀しちゃうようになり、その内、犬同士がちょっとジャレ合うようになる。
 そこで飼い主達も立ち止まる・・
「じゃ、また、明日」ってなコトになる。
 その明日には、また話が少し進行し、
「じゃ、明日のこの時間に」
 なんてコトになる・・・・・・
 で、次の土曜なんぞに、
「映画にいきましょうか」
 なんてコトになる。
 犬は介在せず、いよいよ二人だけの話やら何やらが、はじまる・・・・
 安物のドラマだときっと、そうなる。
 で、我が愛する知人の場合、まさにそのドラマのようにコトが進展したようである。
「で、結婚したんか・・」
「はい、しました」
 知人は照れた笑みを浮かせる。
「実は、もう子供もできまして・・・・」
 幸せを掴んだ者だけが出来る、満ちた、充足した気配の笑みを、こぼしやがった。

 オ、オレも、犬、飼おうか。
 私は半分ほどマジでそう思う。
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