笑って うなだれる
 我が部屋にはビデオとモニターはあるけれど、放送は受信できない。
 テレビジョンというのはどうも魔性のモノだという思いがあり、事実、ナマの放送が画面に流れていると、いつまでも画面から眼が離れないという経験を若い時にしちゃったもんだから、これはアカンとかたく思い決め、極力にそのようなモノは遠ざけてしまおうと決意した。
 お酒とタバコは未だにやめられないけれど、テレビを見るという癖(へき)は、こうして、数年前に退治した。
 禁断症状もなく生活に支障きたすワケでもなく、なければないでコレはヘッチャラである。
 もっともホンマに見たいナァと思う番組もあるから、その場合は、友人に録画をしてもらうというコトで決着をつけている。

 友人は地上波のみならず、BSもCSも何たらも、アレコレと受信出来るようアンテナを複数あげ、ビデオも複数をセットしている。
 毎月のはじめ、彼から分厚い郵便が届く。
 彼は広島方面に住まう人であるから、そのような手段をもってそうするのだが、番組表が送られてくる。
 BSやCSやスカイ何とかの大量の番組がドッチャリコと入った番組表の、そのコピーである。
 ぎっしりと連なった番組の数々を眺めるだけで辟易となるけれど、それでも、拾い見るように眼を通す。
 するとマァ、たいがい、数本の、コレは録画して送ってもらお〜かなァ、と思っちゃう番組が出てくる。
 主として映画だけれど、時には、航空母艦の(もちろん模型でなく)製作過程を記録した、ちょっと特異なドキュメンタリーなんかもあったりして、毎月はじめの一覧のチェックはヤッカイと思う半面、砂の中から一粒の金を見つけ出すような楽しみもアル。
 チェック後に電話でドレとソレとアレとオーダーし、月末か翌月のはじめに宅急便で録画したテープを送ってもらうワケだ。
 ありがたいシステムと言わずばなるまい。
 もちろん、これ一切を先方に負担させているワケではなく、テープの実費くらいは彼に払ってはいる (*^ ^*)
 が、総じて言えば、やはり、これは奉仕に近いカタチだなぁと、時に、そうとは口では言わないが大いに感謝したりもする。
 美しき友情がもたらす無償の行為と思えば、広島方面に住まう我が友が無性に愛しく思える。
 とはいえ、マァ、よくしたもので、良い面ばかりでないのは世の常で・・ この美しい友愛に満ちた行為の中にも小さな波紋があったりスル。

 私が好むであろうと、そう思い決め、先方が勝手に録画したテープを送ってくるという一事である。
 そういうテープで、いやぁ、それはアリガタイ! と思うようなモノは一つたりともない。
 時にコチラが見る気もなく興味も覚えない、それも連作モノが10本近く、ドサッと送られてきたりすると、
「あのなぁ、おまえ・・」
 って感じで頭をかかされたりする。
 しっかりテープの実費の請求がついているから、よけいに頭をかきむしる (*^ ^*)

 そこで、ここは抗議ぞ! とばかりに電話するのだが・・
 先方は、
「まぁ、かたいコト言わんと見てよ」
 笑ってごまかし、尚且つ、あらぬコトを口走る。
「SFチャンネルで、今月、面白れ〜のがアルよ」
「美しきナマクビのナベ、ってタイトルだけでも、何か凄そうじゃないの?」
 当方の怒りの炎はたちまちにこの一語に吸収されてしまった。
「美しき・・ 生首の・・ ナベ〜?」
 思わずながら尻上がりの語調となって、問いなおすと、
「そう! 美しき生首のナベ!!」
「どうしょ? コレ、撮っとこかぁ?」
 嬉々とした気配でもって逆に問うてくるのである。

 美しき生首は諒解出来るにしろ、語尾のナベが、謎である。
 生首製のナベなのか、生首の入ったナベなのか、よく判らない。
 美しいという語が、生首をいうのか、あるいはナベを差しているのかも、よく判らない。
 でも何となく金髪のグラマー美女のナマの首かいな、と思っちゃったりもする。
 ディレクTVの「SFチャンネル」は相当に前の3流〜4流のSFだか何だかよく判らないケッタイな映画を流しているから・・ この奇妙なタイトルもそういった流れのモノであるらしいコトは、判る。
 それにしてもタイトルが尋常でない。
『美しき生首のナベ』
 ほぼマチガイなく、これが駄作であろうと察しはつくものの、法外なそのタイトルが磁力を持っている。

「じゃ、それ、撮っておいてよ・・」
 当初の怒りの矛先は既に溶け崩れ、思わぬ展開となって、結局、それを録画するよう依頼する。
「アンタも好きねぇ」
 受話器の中で先方がロバのように笑う。
 当方もしかたなく、笑う・・

 さて。
 電話が終り、分厚いコピーの束をもう一度めくって見る。
 目的は、その「SFチャンネル」の番組表。
 細やかな文字がギッシリと並んだ一覧を上から下へ、下から斜めへと眼で追うと、ぁ、ぁぁ、あったぁ・・
 その、タイトル、たしかにあったコトはあった。
 けれどもよ〜〜・・・・・・・・
 よく見りゃ、違うじゃないの!
「美しき生首の禍」
 禍、である。
 わ・ざ・わ・い !!!
 我が友はコレをナベと読んだのだ。
 鍋、である。
 な・べ !!
 似ておりますけど、全然、違うのですヨ、コレは。
 
 思えば我が友は漢字がニガテな人だったと今更に気づいたけれど・・
 愚友をせめるか、あるいは、彼のコトバをそのまま受け取ったコチラに落ち度があったか、さてさてこの場合・・
 ナベならぬワザワイを得たりと、 再抗議の意欲なく、当方、大笑して、うなだれる他に手立てが、ない。
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