これが一銭洋食だ

 子供の頃より、我が宅においてはお好み焼を「一銭洋食」と称して大いに親しんできた。
 なにやら明治の文明開化な香り漂う名前ゆえ、あんまり大きく声高くはこの名がイイヨと言わないけれど、馴染んで親しんじゃってるもんだから、お好み焼と言われるより、一銭洋食と言われた方に、より、食をそそられる体質(タチ)と化している。
 なにしろ洋食なのであるから、箸など用いない。
 食するにはフォークとナイフ、である。
 正装の必要はない。ただ、フォークとナイフである。
 写真の通り、我が宅のこれはクレープがごときな色合いと風情をなす二つ折りである。
 二つに折れているがゆえ、あんがい分厚く、まずは、フォークによる切りだしの手応えが楽しめる。
 次いでフォークで口に運ぶ。
 チョメチョメと細かに切ってはいけない。
 頬張るホドな大きさに切るのが好ましい。
 その大きめなヤツを口に運ぶんだ。
 すると、口内たちまちに、ソースとノリとブタとキャベツとタマゴとマヨネーズなどなどな一大饗宴が開始され、舌の官能に炎が点じられるのだ。
 けっして豪奢でない。
 けっして複雑でない。
 けっして高雅でない。
 されど厚く、されど熱く・・ しかるに旨い・・ 舌が喜悦するに値する滋味が拡散するのである。
 それが、まぁ、我が宅の一銭洋食なのである。
 飲料はビールがよい。
 他はいらん。
 皿の一銭洋食、グラスにビール、フォークとナイフ。
 前後するが、ソースとマヨネーズとノリは好みの量をのせればよい。
 まず、丸い状態でソースを適度に塗り、ノリも適度にかける。
 次いで二つ折りにして、再度、ソースをかける。
 マヨネーズをのせる。
 ノリをふる。
 で・・ くどく書くがフォークとナイフ、だ。
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 さて、レシピ
 このたびはあえて秘伝な調理法を公開する。
 二度と云わぬゆえ、御用の向きはプリントアウトされたし。

 必需は厚い鉄板である。フライパンで出来ぬコトはないにしろ、オムレツではないのであるから、ここは鉄板である。さらには、後述する理由ゆえ、広く、厚い、鉄板が好ましい。

 小麦粉を水に溶く。
 昔は小麦粉をメリケン粉(こ)といったもんだが、今だって私は、好みとして、小麦粉というよりメリケンコという方が好きだ。その方がなんだかアリガタミがあるように感じてイケネ〜のだが、若い方にはちょっとした苦笑を呼ぶがごときな呼称かもシンナイ・・。
 ともあれ、そのメリケンコに対し同量な水を用意する。
 同量、ないしはヤヤ多めが、この場合カナメであるから気をつけてほしい。
 水の量が少ないと、駄目だ。
 大阪風な肉厚なお好み焼ではなく、トゥレビァ〜〜ンな南欧な気配すらある一銭洋食なのである。クレープ状というトコロに諸君は、メリケンコが薄く水に溶かれねば斯様にはまいらんという次第を察しなければイケナイ。

 油をひいた鉄板にこの溶いたメリケンコを流す。
 むろん、鉄板は既に熱いコトが是非だよ・・・。
 薄く、丸く、伸ばす。
 円の大きさは、食事に用いる皿の大きさと規定し、その大きさを作る。
 もし貴女のお皿の直径が30センチであるならば、作る円は30センチである。
 それ以下は断じて許さない。
 もし貴兄のお皿が22センチであるならば、作る円は22センチである。
 それ以上は、皿よりはみ出るコトとなる。
 で、薄い円が出来たなら素早く、だしの素をパラリンコとふりかける。
 ここがまたカナメだ。
 多からず少なからずのだしの素をパラリンコ、だ。
 続いて、カツオブシをふりかける。
 パックになった粉状のものでよい。
 これをマンベンなくパラリンコとふりかける。
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 さて、キャベツだ。
 適度な大きさに事前に切っておいたキャベツを、円の上にコンモリと置く。
 チョビっとなんてケチなコトをいうな。
 されど、テンコ山盛りでもイカン。
 なだらかな丘を思うがくらいのコンモリがよろしい。
 さぁ、その上に、次は天カスをまくんだ。
 パラパラパラ・・ パラパラパラ・・

 よし、天カスふりまいたな。
 では豚肉だ。
 バラ肉だ。
 これを円の中に納まるよう並べ置くんだ。
 真ん中に1枚だけなんてケチなコトをいうな。
 円いっぱいにバラ肉をのせろ。

 次いで、その上から、溶いたメリケンコを薄くかける。
 この、薄くかけるが難しい・・。
 多すぎず少な過ぎずの、そのサジ加減は、やはり・・ 書き記せる性質のものではない。
 幾度とトライ&タッチ重ねた挙げ句に勝ち取るワザである。
 うちの母は今年78歳の高齢だが、月に一度ほど、この一銭洋食を作る。
 なにしろ幼少時より一銭洋食に親しみ、15歳で作りだして早や63年・・ 月一の割合でもって計算すれば既に756回、一回に5枚を焼いたと考えるとその数ジツに3780枚の、どえらい場数踏んだ経験値をもつ、いわば大のベテランである。
 その国宝級ベテランのマザーをして、いまだ、時に失敗するワイ、と言わしめるホドに、「つなぎ」としてのココの処方は難しい。
 二つ折りにするを目的としているから、多すぎては駄目なのだし、少なすぎても、うまく柔軟には折れないのである。
 ゆえに心してかかるべし。
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 で。
 さて。
 頃合い見計り、ヘラにて裏返す。
 崩さぬよう用心して裏返えされたし。
 鉄板がでかいホドにこの場合、便利だし、失敗がない・・。
 さぁ、裏返った。
 ヘラを使う。
 ヘラで焼き上がりつつある一銭洋食をグイグイ押す。
 強く、強く、上から押さえろ。
 2度3度4度と、マンベンなく全体をとにかく押す。
 鉄板に押しつける。
 ジュ〜〜〜〜ッ。
 そんなジューシィな音がたちまちに鉄板からあがり、一銭洋食作りはいよいよ佳境に入る。
 なぜ、押すのか?
 むろん、ペッタンコにするためだ。
 そして・・ キャベツの水分を抜くためだ。
 ジュ〜〜、ジュ〜〜ッは、キャベツの水分が熱い鉄板に触れて発する音だ。
 これを科学と云わずして君は何という?
 音の発見。
 水分の蒸発。
 小高い丘であった円形なるものが、見よ、香ばしい匂いをあげつつ、今や、押されに押され、平伏してペッタンな円盤と化す。

 ここで申し添えるコトがある。
 端的に短く言うから、よく聞け。

「焦げめをつけるな!」

 焼き上がる丸い一銭洋食の表皮に、とにかく、焦げめをつけるでないぞ。
 ムロン、ある程度のケツネ色はやむを得ぬ。
 されど、黒々漆黒な焦げをつけてはイカン。
 クレーピィな生地の白い風合いを極力活かすように成すのがイカス一銭洋食と心得よ。
 メリケンコなるは、焼かれ出す当初は黄みがかった色になるが、程よくも焼けますれば、白い、焼きモチがごとくな色合いになるのだ。
 黒く焦がさず、この白さを如何に保ち抜くか、その一点に調理する者の技量の度合が出てくるワケゆえ、火加減よしなに心してかかれ。

 さぁ、レジピはまだ続く。
 鉄板の真ん中に、今、一銭洋食はあるハズだ。
 これをズラして横に置け。
 ここで広い面積の鉄板が必需だというコトに諸君は気づくであろう・・ そうなんだ、今より、鉄板中央にタマゴを落とすのだ。
 用意したるはLサイズの生卵。
 欲すくなき貴女ならSサイズでも、可。
 これをば、再度に油を薄くひいた鉄板中央に割り落とすのだ。
 ポテリ落とせばたちまちに白身が煮えだしてくる。
 煮えだしたら、4つ数える。
 この煮えだした卵の上に、横にズラしてた一銭洋食をのせるのだ。
 で、また、押さえる。
 この時の押さえは・・ ま、好みでよい。
 卵の黄身がつぶれても、あるいは、つぶれなくとも、ドッチャでもよい。
 よし!
 ヘラで裏返せ。
 タマゴの面が上に来たであろう。
 それでイイのだ。
 皿にうつして、ハイ、おしまい。
 そう・・ 唐突に、ハイ、おしまいなのだ。

 食する法はこの文中のトップにある通りだ。
 作る→ 食べる → 不足たらばまた作る → 食べる
 これすなわち、幸多かれな食の円環だ。

 
ソースのブランドや如何に? との声がありそうだから申し添える。
 甘口お求めなら、
おたふくだ。
 多少に猥雑な辛みを含ませたければ、
カープソーストンカツソースを少し混ぜて食すが、ヨイ。
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