三日坊主
 水曜終日。
 木曜終日。
 金曜午後19.00まで。
 ほぼ3日。
 禁煙した。

 たった3日が何よ〜、と思われるかも知れないが、当の本人にとっては、シンドイこと極まりない、Longet Dayな、3日であった。
 人生いたるトコロ、あらゆる局面、ナンギョウ苦行多々あるとは思うけれど、ひたすら、黙して、タバコを我慢してるってのは・・ なにやら哀しく、つらく、とても疲れる。
 苦しい、死ぬ〜、ってな感じではない。
 感じではないけれど、ともかく、悲痛である。
 つらい、としかいいようがない、痛苦なのである。
 漠とした焦燥が、たえず、前面、背面、側面、グルリと自分を覆うようにあり、こいつがなかなか手強く、しぶとく、ぴったり添うたまま、つかず離れずなもんだから、なんだかあらゆるコトに手がつかないような感じとなる。
 アメダマなめたり、紅茶すすったり、とにかくも念頭に浮き上がってくるタバコをうっちゃろうと、平静な顔してひたすらに、自身をごまかすのだが、タバコは背後霊のようにピッタリと、想念となって離れない・・
 これはつらい。
 ニコチンというのは、ホンマのところ、害あるものである・・ 体内のニコチン分が減少した途端に、それを求め止まぬ果敢さを持った害毒である。
 体内で、体内が、体内のためにとニコチン摂取を継続せよと命じてくる・・  それが、焦燥やら苛立ちとなって苛んでくる。
 ニコチンのなせるワザと判っていつつ、既にニコチンに犯され、ひたされ、漬かりきっている我が内裡の魔物は、我が意志を粉砕すべく、肉体の危急の用件として、直ぐに、ただちにタバコを吸え、と追い被さるように責め寄せてくる。
 七転八倒という苦しみではないけれど、ジワジワ、ユルユル、かつ、くどく、絶え間なく、波のように、寄せては引き寄せては引き、誘惑し続けてくる。
 このユルユル、ジワジワが、とにかくも、つらい。疲れる。
 激痛ではないのだがヤンワリ永続する歯痛のように、時間をかけてネチネチと攻撃をしかけてくる。
 心と身体がバラバラになるんだ。

 タバコを吸わない方からして見れば、マコトにげせない現象に違いない。
 タバコを吸わない方に、ゆえに禁煙の苦悩を申しても、さほどの意味はない。いっそ、意志が弱いヒトね、と馬鹿にされる程度で、苦悩やら苦渋はチッともオスソワケ出来ない。
 そうであって尚コトバでこれを説明しようとするなら・・・・・
 諸君は、黒板にツメを立てた音を知っているか?
 もし、知っているなら、それを今、アナタの頭の中に再現なさいな。
 あの音。
 5本の指先をキュッと立て、黒板の上っツラを滑らせる、あの音。
 あの音の感触にも似通うのが、ニコチンが切れたおりの痛痒なのである。
 これが絶えず、鳴るのだ。
 そういう感触である。
 我慢ならない、その感じが少しは判ってもらえたか?

 映画「戦火の勇気」で、デンゼル・ワシントンが、アルコール中毒ぎみの自身を何とかうっちゃろうと、酒瓶を眺めているシーンがある。
 デンゼルはいい役者だ・・
 我慢の痛痒を、うまく、演じてた。
 我慢は、例えソレが酒であれタバコであっても、何だか、端から見ると、バカっぽく見えちゃうもののようである。
「戦火の勇気」のデンゼルの哀しげな、にっちもさっちもいかない表情はとても秀逸で、なるほど、タバコ我慢してる私も、ひょっとしてあんなドンヨリした眼をしているのかしらとも思ってしまった・・・。

 人間には・・ 意志強固な方とそうでない方の二つがある。
 私の知る範囲、タバコをやめちゃった方といのうは、その性格を色別けしたならば、概ねは、何事につけ意志が固い方というコトに思いあたる。
 私の父がそうだった。
 知人の、電気工事の会社の社長もそうだった。
 T.F氏もそうだった。
 三者共に、総じて、あらゆる局面で毅然たる態度がとれる、意志頑なな部分を持つ人達であった・・ その強毅が自らに向えば、自ず、タバコは断てるとも考えられる。
 ただ、意志のパワーでもってニコチンを撃退するというのは同じながらも、痛痒に耐え忍ぶパワーの深度が、相当に違うような気がする。
 この違いが、大きい。
 そのコトを思うと、当方、随分と意志薄弱な人間というコトになり、何やら、なさけなさを味わい知らされて、よっしゃ、あの方々のように踏ん張らなくっちゃ〜、などと決意あらためたりもするにはスルのだが・・ アカン、駄目です、出来ません・・ 結局、3日でもって禁煙は終焉するのである。
 岩をもうがつ一滴の水の浸透ぶりでもって、シガレットは我が意志を打ち砕いちゃうのである・・・
 三日坊主となりにけり、などと自嘲浮かせながら、ロンソンでパチリと火をつけちゃってしまうのである。
 挙げ句に、
「ぁあ、うまい、やっぱり、コレだよな・・」
 立て続けに4〜5本吸って、ニコチンを大量摂取し、3日の辛抱は元の木阿弥と化すのである。
 ふぅ〜〜・・・・・・。
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