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ここに一本、ボトルがある。
茨城に住まう、クロニャンという今年13歳になる黒ネコと生活する人から贈られた。
彼女はさほど酒をたしなむという方ではないけれど、ボトルチョイスの識眼は確かで、ある。
スラリとした細身の瓶で、一瞥、ハッとさせられるホドにシャレた気配がある。
焼酎である。
名を『獅子の眠り』という。 |
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浸透力のあるいい名である。 物語が秘められているようで良好な響きもある。
シンプルで新鮮で、逆にそれが豪奢でさえある。
獅子が眠るコトで、瓶に静穏が醸されている。
獅子たる理由は、むろん、これが酒精30パーセントのアルコールというコトに起因していると思われるが、それをネーミング上で「眠らせた」辺り・・ なかなかのもんだと思わさせられる。
製造元は茨城県の日渡酒造株式会社。ひわたし、と読む。 茨城県は日立市にある地酒屋さんである。
大吟醸・元亀という酒なんぞも作ってる。元亀と書いて、げんき、と読む。
この細身のボトルの場合、金色の下地にスミ一色「獅子の眠り」と記したコトで、その金色に、たおやかな草原の午後の静かさが想起させられるようである。
ムロン、草原には、一頭の獅子が眠っている・・・ 穏やかに充足した気配で、次なる躍動にそなえて、獅子が一頭、眠っている・・ と、そういった感触を、この秀麗なガラスのボトルは唱えているよう思える。
涼しげな風が草原に吹いているような触感である。
どうやらこの製造元は、この一本の品名に、形而上的風格をもった寓話を封印したようである。
こういうシャレっ気のある蔵元の酒は、きまって、うまい。 |
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「獅子の眠り」は米をベースとした酒精分30パーセントの焼酎だ。我が愛飲の「いいちこ」が大麦ベースの25パーセント。この5パーセント、数値で見るに僅かなれど、焼酎の世界にあっては差異が大きい。1パーセントの乖離は市と村ホドにでかく、5パーセントともなれば、月と木星ホドに距離がある。
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さあ、封をきろう。
グラス。
氷。
獅子の眠り。
三位一体。
注ぐ。 |
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酒は音を聞くのがいい。
卓上に静止させると、酒は氷と触れたコトで音楽を奏でる。
それは微かな、仔細な、物理学的な音であるけれど、耳をすませば、詩(うた)として届く。
北と南の厚い氷で覆われた極点下においても、きっと、この音は鳴っているに違いない。
勘違いしている場合が多いが、南極の氷も北極のそれも、アレは海水が凍ったものではない。氷は真水だ。だから、氷の下層ではたえず、海水と氷の責めぎあいが音として生じ、壮大で重厚なハーモニーがたえず繰り返し奏でられている筈で、ある・・
その壮大さはグラスに再現は出来ないけれど、グラスはグラスの宇宙があるさ。
ミミミミ……
チリチリチリ……
口語で書けばそんな次第な単音に、
チュピチュピチュピチュピ……
フレーズの節目にメリハリつける打鍵音がかぶさる。
時に、キ〜ン、という感じの金管音に似通う音色も、ある。
きっと太古の昔からある、コレは原初の調べだ。
ひとしきり、その音を愉しんでから、一口、透明な液を口へ。
ゆるく転がす。
ゆるく廻す。
焼酎は蒸留酒だから、各種のフレーバーが口内の随所で点滅するワインのようなグラマラスな豊満さは最初から、ない。
シンプルで、迷いがなく、一点の針穴に芯を通すみたいなストレートな感触に満ちているきりで、過剰も余剰もない。 |
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口の体温に同化して、獅子の眠りはゆっくり冷から温へ変化する。
その変化の過程に、玲がある。
麗もある。
感知出来うるギリギリの所、鼻孔の奥の方で、かすかに、穀類のそれと判る香りが立っている。
それが、遠方で小旗を振っている少年をみるような、鮮明な華やぎとなる。
澄明な気品ある炎が小さく炸裂し、舌が歓喜する。
酒精に、ピリッと背筋を伸ばした気配がある。
凛としてキリリ、涼やか。
うまい。
うまい、と思わさせられるのは、玲瓏な涼やかさから熱気のある何物かに、液が、舌の上で変じる瞬間だ。
その瞬間、妖艶が生じる。
醸造酒のむっちりした妖艶ではなく、しなやかさに醸された艶といったニュアンスの、直情っぽく、ちょっと挑発してくるような・・ 例えるなら、ジッとこちらを見詰めている黒い瞳といった按配の・・
そこをすかさず、飲みこむ。
喉をこし、体内に入った途端・・ やはり、そうだった。
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形のないものが輪郭を結びだした。
獅子がめざめた。
タテガミから蒼い炎を散らして、獅子が目覚めた。
そう感じさせられる。
たちまち、黄金な草原が輝き、夜はゆっくりと煮えかける・・・
グラスが踊る。
氷解する。
これはうまい。
仲間とワイワイやる酒ではない。
ずっとずっと大昔、賢人が、これを"Aqua-Vitae"と呼びはしなかったか・・
"命の水"
これは、自分を肴に1人飲む酒だ。
LION'S LONG SLEEP.................
また一つ、円環が閉じる。
(^0^)、そんな感じです、ぞ。
多謝
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