i-Drive
〜その1〜
 日々を自転車で駆けるようになって早や1年。
 いわゆるママチャリをば御愛用で過してきた次第なれど、多少ながら脚力に自信が宿ってきたコトもあり、ちょっと自転車に不満を持つようになった。
 もう少し踏める自転車が欲しいなと思うようになった。
 で、
自転車を1つ新たにすると決めた。

 通勤路の途中に一軒、自転車屋があり、ここはどういう次第か私が通過する頃合にメッタと開いていないのであるけれど、チラチラ外から眺めるに、店内にはいわゆるママチャリ系なお手軽なモノが少なく、ひっそり閑とした、こんな場所でなぜと思われるホドに、大半はマウンテンやロードサイクリングといった種のようなので、私は常々、不思議に思っていた・・。
 自転車購入を決意するや、その得体の知れないTという自転車屋が俄然、私の内部で脚光を浴びるコトとなった。
 たまに開いている時に見る、髪を後ろで束ねたオヤジの風貌にも興味があり、年齢は私よりは上のようながらいつも短パン姿で堅牢そうで、いわゆる自転車屋のおじさんという感じでない点が、何か予感めいた期待と、逆に、それゆえにの不安感とが兆すのであるが、店とその店主を知るこれは良きチャンス・・
 早めな時間(お昼の4時頃ネ)に店を訪ねてみた。

「例えばジャイアントといった・・ 輸入品の自転車を扱う?」
 開口一番の問いに、白いヤギ髭たくわえた年齢不祥の店主は、
「扱いますよ」
 ヒョイとカタログを取りだして来た。
 扱いはしないと言えば、それで立ち去るつもりであったが、たやすくジャイアントの2001年カタログが出てきたから、コレは多少嬉しい不意打ちだった。
 そこで、
「通勤に使いたいんですよ」
 かねてより下調べ、コレと決めていたある車種を彼に告げてみた。
 すると先方は、こちらの毎日の走行距離と、今までどれくらい自転車に乗って通勤してきたか期間は? とそうお尋ねになるのである。
「往路12キロで、既に1年が経過しましたよ」
 とのコチラに、店主は頷いた。
「今時には皆んな乗るんですけどね、冬にゃ乗らないんです・・ 冬も乗ってきたならオーケーです」

 店主はどうやら逆に私をテストしたようである。
「もし、冬に乗ってないというなら、そこにある18000円のナショナルの自転車を勧めようと思った」
 後日尋ねると、そういう主旨であったようである。
 ネッカラのサイクリストである店主は、高額な輸入モノを得体の知れぬ一元にはあまり売りたくはなかったのである。
「カッコだけで乗るな」というコトらしい。
 で、本気度をテストしてみたワケね。
 おかしな言い方だけど、それでまぁ合格印を押してもらったワケだ。

 店内見渡すに彼の過去から今に至るサイクリストとしての栄冠、誉れ、等々、表彰状やら写真やらが飾られていて、なるほど、ネッコからの自転車野郎なんだわさの雰囲気である。
 工具も、何だかそこいらの自転車屋に較べ、圧倒的に多い。
 
 で、店主のT氏はやおら私の足の長さを計り、ジャイアント2001カタログの、私が希望したそれのスペックを見、
「山本さんが乗車すると、こんな感じになりますよ」
 手近い形をした某社の1台のシートを下げて、私に乗るよう促し、またがったままの停車時の姿勢にさせて、
「ホラ、フレームが股間にあたるでしょ・・ それはねェ、フレームサイズが山本さんのサイズにあってないんですわ」
 斯様におっしゃるのである。
 私が希望するモノは、私の足の長さとフレームの関係がうまくあわないというコトなのである。
「もちろん、乗れないワケじゃない。充分、乗れはするが、ピッタシとフィットしてるというコトじゃない」
 とも申される。
「10万を越える金額を費やす自転車を選ぶならフィットしたものをチョイスせねば」

 ぁあ〜あ、そうなのか・・ そうなのね。

 どうやら、大当たり。
 イイ自転車屋に遭遇したようなのである。
 営業時間が私とマッチしてない点が少し残念ですけど・・ ここで自転車を買って面倒見てもらうに決めた。

 上記理由により、急遽、希望品が変更となった。
 ジャイアントの別車種を選ぶコトになった。
 残念ながらそれはオーダーしてみると、入荷が夏以降というコトのようで、ここでまた、車種変更・・
(待っても良かったのだけど、でも、こうなると、何か早く欲しいじゃないか)
 で、次いでにメーカーも変更。
 GT、という米国メーカーのそれにした。
 BMXレース用のフレームからスタートしたメーカーで、いまや米国ではトップ・ブランドであるらしい・・
 決して、その名が好ましくってソレを選んだワケではないけれど、車種名は、i-Drive、という。
 フレームのサイズは、単純にいえば、Sサイズをチョイスした。
 というより、私のアンヨの長さでは選択としてSしかないのだ・・

 スタンドなし。
 ライトなし。
 ドロよけなし。
 ベルなし。
 ましてや盗難防止の鍵もない。
 あるのは・・ 頑丈ながら軽量なフレーム。
 変速機はラピッドファイヤー前3段、後ろ8段の24変速。
 前輪後輪は調整可能なサスペンション。
 車に例えるなら純然たるスポーツカーというコトになるんであろうな、コレは。
 だから・・
「これにカゴつけちゃうワケにはいきませんか?」
 との当方に、T氏は塩入りのコーヒーを一口飲まされたような顔になって、
「あのねぇ・・ そんなのを求めるんなら選ぶ自転車もまた違うんですよ・・」
 ってな按配になるのである。


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