だましの文化史
 ずっと以前から、就眠前の一時には、どってコトのない他愛ない本を読むという癖があり、これは今も連綿と続くいわば習癖である。
 どってコトもない本というのは、人によって千差あるけれど、私の場合は、「失われた大陸」とか、「ネス湖の恐竜」とか「謎のピラミッド建造」といった類いの、やや荒唐無稽な感のある内容が記されたモノというコトになる。
 何もかもが宇宙人の仕業との想念でもって書かれた一連のA・デニケンの著作なんぞも、この内に入る。
「こんな本を読んでます〜」
 と、大きく吹聴したり、自慢したり出来る類いでは、ナイ。
 読みつつ、そんなアホなぁ、と思わずにはいられない内容が含まれる、見ようによっては空ろな気配すら漂うモノ達である。
 昨今はこれらを総称してトンデモ本というやや差別的ジャンルで括ってしまう傾向があるけれど、まぁ、それはそれとして・・ 私の場合でいえば、内容がやや古典的といった類いのものが多いようである。
 古代の世界七不思議にまつわる話とか、空飛ぶ円盤とか、異星人とか、謎の巨人とか、航海中の船から人が消えたとか、ともかく現状の科学の規範の外にある物語の数々である。
 眠る前の数分、そんな記述だらけの本を読んでは、笑ったり、ホホ〜と感嘆したり、鼻のアタマをかいたりを、繰り返して来た。
 どこぞの星の何とかいう岩が人の顔にソックリだァ、なんて他愛もないコトをまことしやかに論証しようとするのを読むのは、とっても愉しい。
 この手の話は「物語」の原典だな、という思いも少々はアルけれど、 嗜好として、このようなモノ達が好きなのだから、このさい言い訳なしで正直に申請しておこう (^0^)
 ヘタなSFや殺伐としたマンガを読むより、こういうものはよっぽど面白い。

 ゴードン・スタインという人が「だましの文化史」という本を書いている。
 発売元は紀伊国屋書店。発行は日本アソシエーツ。
 総ページ500に近い大部で、上記したモノを含む多数の『作り話』の真相を描いている。
 内容は多岐多彩。
 政治的な作り話、科学にまつわる作り話、考古学にまつわる話、絵の贋作、文学に関するソレ、音楽に関するアレ、空飛ぶ円盤もノストラダムのソレもムロン含まれる。
 よくぞまぁココまで収集し、かつ、それを丹念に覆していったもんだと、著作者のゴードン氏に敬意を覚える。
『作り話』を掘り起こしては一つ一つ足で踏むように、それがウソであるコトを暴いていく・・
 エルビス・プレスリーが今も生きている、というような話も丹念に検証しようとしている・・
 読み出すと、オモチロクてちょっと止められなくなる。
 止められなくなるけれど、2つのコトが鼻をつきもする。
 まずもって何が何でも『作り話』を「作り話」だと断定してしまおうとする気配があって、コレが鼻につく。
 文化史を標榜しつつも、ついつい真相の究明の方に力点が置かれがちで、文化史というより暴露の羅列のような按配になる。
 この微かな異臭に輪をかけるのが、訳文のヘタさ加減である。
 文がこなれていないという以前に、文として成立しないような部分もあり、しばし、その悪しき行間に立ち止まらさせられて閉口を余儀なくさせられる。
 おそらくは、訳した本人も、その内容について自信を持てないのではないかと訝しむような箇所が幾つもある。
 四人の方が共訳として名を連ねているけれど、共同作業を必要としたという点に、熟達でない若葉マークの気配が滲んでいるようだ・・
 総じて、『作り話』がそれがどのような事態でもって生成されたかはあえて問わずに言ってしまえば、これはイマジネーションの飛翔であったろう。
 一方の本書はそれらイマジネーションに価する飛翔はない。こぼれた砂糖の粒を指でプチプチと潰しているに過ぎず、タイトルにある「文化史」に遠い。
  その意味において、この本は「二流」と言わざるをえない。
 作り話を検証しようとする立場ながらも、学術書になりきれない浅さがあり、その上、拙文ときているもんだから・・ 作り話のそれと表裏をなす胡散臭さが現れてしまい、これがまた二流を二流たらしめている。
 2800円もする本なのだから、原書にプラスアルファを加味するなり、訳者の吟味をしっかりするなり、とにかくもう少し踏ん張ってチョウダイ、オネガイネ、と版元に申したいトコロだ。
 ともあれど、我が嗜好として連夜の数分に接してきた話の数々も網羅されているワケだから、やはり、本質の部分ではオモチロイ。
 知っているアノ話、コノ話、知らない話、などなどが次々に登場するのは快感だ。
 ワクワクもなく、ドキドキもなく、ハラハラもなく、安眠への無害な『良書』として、しばし、本書とは付き合うコトになるだろな。
 座して読むというコトでなく、フトンから亀のように顔だけ出して、ミカンを食べながら読むにはマコトに都合がよい。
 ミカンでなくともピーナツでもよい。
 ポリポリとかじりながら拾い読みする楽しさは格別だ。
 寒い冬の、就眠前の僅かな時間の、これはささやかな愉悦だ、ナ。
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