6ケのスピーカー
〜その1〜
 久しく使い続けたオーディオ・アンプの調子が悪い。
 ボリューム部分に最たる不具合があり、ボリュームを上げ下げすると激しいノイズが入る。
 各種のセレクトスイッチも不調で、あきらかに接触不良なのだと判別できる・・・。

 このアンプは今を去る19年前、昨年暮れに亡くなった我が父に依頼して作ってもらったものだ。
 オーディオ・アンプやらスピーカーを組み立てるというのがこの人の趣味で、オトコの趣味というのは時として卓上のささやかさを上回るものになるのだけど、オヤジの場合も確かにその路線にあると思わさせられ、私が中学生の頃には、4ヶ月に1台くらいの割合でもって、オヤジはオヤジの職場の知友らの依頼でステレオ・コンポを製作し、ほとんど実費のみでソレを提供していた経緯がある。
 木工工作、金属工作、くわえてトランジスタ知識の必需と組み上げ実践という、なかなか方面多岐に渡る作業を、いま顧みるにこの人はモクモク、実は嬉々としてこなしていたのだなぁと追想もするのだが・・
 私に提供されたアンプは、彼のながい製作歴のフィナーレとなる作品だった。
 トランジスタからICの時代に移行し、その精緻精妙なICなるものに違和覚えると同時、ICが産みだす量産物としての廉価なオーデイオ機器の氾濫が、彼の趣味の興をそいだのではなかろうかと、愚行するけれど、ともかく私の方の事情としては、当時、ビデオ機器の映像入出力と音声入出力を兼ね備えたような装置は存在していなかったという次第が、父への製造依頼の根幹であった。
 通常のオーディオ装置に加えてビデオやLDの映像のセレクターを一緒に組み込んだだけの、マ、単純な仕様なシステムAVコンポーネーントなのだが、次いでながらと、当時としてはモノ珍しい部類に入るウーハァー・重低音スピーカーへの出力も組み入れた。
 むろん、そのウーハァーも自作である。
 45cm口径のスピーカー本体をはじめて眼にした時にゃ、私もかなり驚いたけど、これが分厚いラワン材(いや、桜の木だったか)で組み上げられた箱として構築されると、そのデカサと重さと頑強さにヤヤ眼眩むような気分になったもんだ・・

 待つコトおよそ2ヶ月、出来上がったアンプとウーハァー は満足のゆく品だった。
 ビデオ機器のセレクトも申し分なく、とりわけ、ウーハァーの重低音には、かなりマイッタ。
 ボリュームを上げると、家が共振・共鳴するのである。
 ビリビリ・シビシビと、部屋だけでなく家のアチコチで、壁を含むアレコレが共振するのである。これは笑った。
 後に、映画「バック・トゥ・ザ・ヒューチャー」であの博士が作ったとおぼしき超どでかいギター・アンプ件スピーカーが登場して笑いを誘われたけれど、その小型な縮小版を手中にしていた私としては、だからあのマーティぶっ飛びのシーンの意味合いと気分と雰囲気はダンコ指示出来るのだった。
 ともあれ、以後今に到るまでこのオリジナル・アンプを使い続けたワケなれど、 既製品以上に長寿であったとはいえ、さすがに、くたびれた。
 音の左右の定位も不安定で、ともすれば、右だけとか左だけとか、音が出たり出なかったりスル。

 父逝った後、こうしてアンプまでも逝っちまった・・
 このさい、やむなし。新規にアンプを購入せねばなるまい・・

 そこで、家電店にて各種カタログを拾い集め、アレコレ検討を試みた。
 この分野は私にとっては、かなりの手薄な部分なのである。
 ここ10年くらいの、オーディオ界の推移も知らなければ、モノの良し悪しも皆目判ってないのである。
「ドルビー」なるコトバを知ってはいても、それが如何様なものかも知らないできた。
 そういった音環境を我が部屋に導入というコトも眼目になかった・・。
 DVDの普及と大型のモニターとが、家庭内における「シアター」を可能としているのが、今の様相のようである。
 狭義な趣味の範疇でなく、広域な意味で「シアター」が家庭内に実はもう浸透しているんだなァと、少なくとも家電店の店頭でそう実感させられたホドに、これは疎い分野なのであった。

「ドルビー」といっても、2種ある。
 プロロジックとデジタルの2つ。
 ドルビー・プロロジックというのはスピーカーに向けての送り出し信号が、左・真ん中・右・サラウンド、という4ケに分別できる。4ケのスピーカーを使うという次第で、ちなみにサラウンドというのは『取り巻く』という意味らしい。主としてリスナーのやや後方にこれは置かれる。
 ドルビー・デジタルというのは文字通りにデジタル処理の圧縮技術で、プロロジックではモノラル音だったサラウンド部分がステレオ化されている。これに加え、重低音も分離され、システムとしては合計6ケのスピーカーを用いるワケで、今、映画の大半にはこの音が入っている。
 5.1ch、といった表記がこれにあたるらしい。

「dts」というのが昨今誕生しているようである。
 基本はドルビー・デジタル同様に6ケのスピーカーを用いるが圧縮率が低いので、音に厚みがあるそうで、今後、ドルビーに変わってコレが映画の主流になるやもしれぬ・・ といった気配である。
 映画「U-157」のDVDにはドルビーとdtsの2種の音源が選択出来るようになっていたりする。

 さて。
 アンプ。
 この場合はAVアンプ。
 チョイスとして、デジタル・ドルビーとdtsに対応したモノを選ぶコトとした。
 DVDなりLDなりにそういった信号が入っているのであるから、それを感受出来うる最低限をこたびは備えてやろうとの魂胆。
 アンプの類いは、法外なホドに高いもんがある。45万とか55万とか、なんでそんなにするんやろと思わさせられるモノがイッパイある。
 無論、そんな高額品は求めようもないし、それに値する設置場所も持ってはいない。まず第一にその高額から出る音の良否を判別出来る耳を、持っていない・・。
 最低限の装備があり納得出来るお得なお値段なアンプというのが眼目の中心である。
 ドルビー・プロロジック対応のアンプは1万くらいからあるけれど、アレコレ調べると、それは70年代から80年年代中期にかけての映画なりにのみ採用されたモノで、それ以降のものに関してはやはりデジタル・ドルビーがモッパラであるらしい。
 そうすると、やはり、今の映画館と同じ音場を再現するドルビー ・ デジタル仕様が最低必要であるというコトが判ってきた。
 これは1万では買えない。
 悔しいが、買えない。
 コレは4万円くらいから対応というコトで各社のカタログは共通だ・・。
 位置付けとして私の場合は入門であるから、20万も30万も支払う気分はない。その4万くらいの製品のどれかというコトになろう。
 パイオニア、ヤマハ、ティアック、ビクター、デンオン、ソニー・・
 カタログのスペック表を見比べたり、ちょっとメモったりしつつ比較してゆく内、ヤマハとデンオンのものが候補として上がってきた。

 デンオンが税込みで4万とちょっとに対し、ヤマハは3万5千くらいだ。
 価格はヤマハが良い。
 でもコレはヤマハ独自の「CINEMA OSP」なる回路が入っているものの、dts に対応していない。
 デンオン製品はドルビーデジタルとdts 両方の回路アリだ。
 光ケーブル・ラインを含む入力端子の数はどっちも同じ。
 フム。
 どうやらデンオンで決まりという気配である。

 で・・ この5.1chに対応した6本のスピーカーをも、こたびは買うコトとした。
 ここ数年、テレビモニターの左右に陣取っていたのは友人からもらったスピーカーで、プラスチック・ボディのマコトにお手軽チーピーな代物であった。
 それまではキチリとした木製の割とイイのを使っていたのだけど、ある時うっかりスピーカーのあの振動する膜部分を破いてしまったのだ。(破るなよ〜)
 やむなく、ガムテープ張って(はるなよ〜)、応急のつもりだったんだけど、こりゃサスガに音が笑う・・。
 で、友人から急遽もらったのがプラスチックボディだったという次第。
 てんで良くない音・・
 音を放射する装置としてのスピーカーなのである。
 楽器て例えるなら、木管や金管はあってもプラスチッキー管といった種は存在しないのである。
 そんなワケありで、ここはやはり木製のものを求めたがよかろうと・・ やはり、カタログをアレコレと拾い読む私なのであった。

 なにしろ、設置する場所が限られ、かつ大きさにも制限がある。
 大口径は望むスベもない。
 価格的、サイズ的にカタログで見るにティアックのものが良く見えたけれど、家電店へ視察に行き、触ってみたら、やたらに軽いや・・。
 側面をこっそり叩いてみると、妙に空虚な音がし、いかにもプラスチッキーな感触なのである。音も良いモノが出るとは思えないのである・・ いや、コレはアカンわ。
 念頭に置くのは木製で、それなりに重そうなモノなのだ。
 で、結果として、アンプと同じメーカー製のものをチョイスというコトに決めた。
 デンオン、である。
 ボーズ、というワケにはいかんのだ・・ お小遣いには限度という壁があるんだヨっと。
 それに、音の特性を最大限に引っ張り出すには、この程度のプライス商品ならば、アンプとスピーカーのメーカーが同じ方がエエのんとちゃうやろか、という目論見もある。
 ちなみに、デンオンのそれは、右と左と背後左右の4本が各8000円ほど。
 センターが25000円、ウーハーが22000円くらい、である。
 合計8万円ホドね。
 が、家電店の店頭にて、同じデンオン、同じ形ながらも6本がセットになった44000円の商品もあるというコトを店員に聞かされて、私はうろたえるのである。
 スペック的には多少落ちるけれど、サイズはほぼ同じで、価格ときたら私が想定した6本の合計の半額に近いのである。
 ぁあ、こういう時、日頃のビンボが顔を出すんだ・・・。
「ぁ・・、では・・、それをお願いします」
 数日に渡って検討に検討を重ねたハズであった決定がドタンバでもって、アッケなく、チョビっと安い同系列品というコトになってしまったのである。
「スペックが落ちるといっても、ドルビーデジタル用途ですし、充分に満足出来る音がコレ、出ますよ」
 という店員のコトバを励みと拠り所と弾みとにして、ソレを求めたのである。
 マ、アンプは当初の計画通りのものを胸はって(はるなよ〜)注文したのだが・・ なんだか、少しばかり心が曇っちゃうような顛末では、あった。

 ともあれ。
 さぁ〜て。
 揃った。
 つないだ。
 セットした。
 各種コードを結ぶのはとっても手間だね・・
 ここで多くは語らないけれど、設置作業で一番のナンギがコード配線と結線だった・・。

 今回、思い決め、DVDとアンプは光ケーブルで結んでやった。
 スピーカーへの支払いが半分程に圧縮された、そのせめての意趣返し。
 アンプには光ファイバーケーブルの端子が装備されているのだから、これをば利用しない手はない。
 おなじみの赤と白な左右のサウンド入力ケーブルは用いず、光ファイバーで結んでやると、なんだか、数段、高尚にグレードが上がったような気分も味わえる・・・。
 わずか40cmに満たない短いケーブルの癖に価格は5000円を越える奴だから、そのネダンくらいは音に加えて欲しいなと願いつつ・・ アレコレ、電源をオンにして、さぁ、試聴・・・
     
 
本項つづく
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