雪の中の活き活きたる花
ダンボールの町
このページの最下段にMovieが収録されています
 阿哲郡大佐町は岡山県の北南にある小さなささやかな町で、冬は雪に閉ざされる。
 北上すれば蒜山が間近く、南へ向かえばすぐに広島との県境という山間の小さな町である。
 その小さき町の商工会の連中がダンボール紙で昔の大佐町の街並みを再現したと聞き、さてとそれなるは如何なるものかしら・・ 興味がムクムク沸いてきた。
 そこで某日、知友ら複数とそこに出向いてみた。
 雪が降り雪が積もる大佐町は天も地もグレー一色の白黒写真の階調を思わせるほどに色が、ない。
 暗い、というイメージではなく、墨絵の世界に入り込んだような、静安が根底にある落ち着きのある町である。
 アーケードのない商店街筋があり、アーケードがないゆえに雪は容赦もなく降りそそぐから、八百屋のおかみさんは、始終ころあい見計らい、軒の先で雪かきをなさっている。八百屋のおかみさんだけでなくタバコ屋のオバさんも、店先の雪の除去に余念がない。
 その作業に腹立てているとか億劫であるとかいう気配ではなく、既にもう何十年もそうしてきた、ごくあたりまえの日常の作業として箒を動かしているという姿が、雪のない岡山市に住まうボクの眼には新鮮に映える。
 その小路に商工会がある。
 その真横。
 倉庫とも駐車スペースともとれる、奥に長い空間に、"ダンボールの町"がある。
 郷愁をさそうちょっと昔の町のカタチが、手作りされてそこにある。
 徹底して手作り。
 だから仔細を眺めると、子供の大掛かりな図画工作を彷彿させられる部分もあって、イベントにおけるプロが造った造形物と比するに、これは・・ という感想も出てこないではないのだけれど、しかし稚拙をはるかに凌駕してキリキリ光っているスピリッツがあって、そこにボクは魅惑をおぼえさせられる。
 部分の造形の稚拙はすぐに見えなくなる。
 幅およそ5メートル。
 奥行きおよそ15メートル。
 その空間に置かれた町並が、ダンボールとはいえ活きづいている。
 呼吸しているのが眼に見える。
 直感として、この作業はメチャに楽しかったろ〜なァ・・ そう思った。
 たまたま、このダンボールの町を計画遂行した中心人物と会うコトが出来た。
 ナオさん、という。
 年はボクより4歳ほど若い。
 飄々として凛々しく、いっそ風雅な匂いすらある好人物である。
 この地で食料品店を営みつつ、ロックバンドをヤッていたり、このようにダンボールの町を造ったりもする。
 過疎で不便で田舎の・・ という眼で大佐町を眺めると決して見えてはこないカタチの人物が嬉々悠々とそこで"
活動"なさっているコトに衝撃めいた感動をおぼえる。
 この感動は、ボクの中にある、よからぬ"地域差別的"な眼から生じているに違いない・・。
 
地域・地帯はもう関係ないのだ。
 どこに住まいしようとも、そこでどう"
活きて"いくかが21世紀をいきるボクらの、たぶん、それが最たる命題なのだろう。
 その眼でいえば、このナオさんは「活き活きたる花」である。
 花にたとえると女性かと思われちゃ困るが、ナオさんは男性である。
 たまたまの偶然、大佐町から帰ってボクは朝まで某所某所で呑んでいた次第なのだけど、朝方に寄ったBARモンキー・バナナのマスターと、このナオさんが20年ホド前には一緒にバンドをヤッていたというコトを聞いて、オヨヨ〜! ちょっと息をのまされた。
 マスターの池チャンが20年前の写真をゴソゴソとカウンター越しに取り出し、指で一人のステージ上のギタリストを指す。
「これがナオだよ」

 ダンボール製の町は、そのナオさんを中心にのべ200人前後の大佐町の人達が協力して作り上げたという。
 おそらく200という数字は誇張とも思うのだが、それでも老若男女多数がココによってたかってワイワイやりつつ彼ら彼女らがその痕跡を記したという点は間違いない事実であろう。
 図面をかき、ノコをひき、クギをうち、ダンボールをはり、ダンボールを加工し、ダンボールに色をつけ・・ 一昔前、この商店街はア〜だったコ〜だったと記憶をたどり、白い息をはきつつ、コートの下のハートを沸騰させ・・
 前記した通り、この作業は楽しかったに違いない。
 大いに愉しんだに違いない。
 寒さを忘れる愉悦が暖になったに違いない。
 良い"作品"と、ボクは思う。
 これは期間限定であるから2月の中ごろには壊されるという。
 惜しみなく壊す、その潔さもすこぶる良い。
 ボクとボクの仲間はカメラでこれを記録し、だから、例えばこのHPのように公開も出来る次第ながら、ダンボールの街並みを造った気分と その作業の昂揚は・・ ナオさん達の中にのみ"有る"ものだ。
 ボクらは作られたそれを見学出来るけれど、製作の昂悦は想像する以外に手立てが、ない。
 モノを造っている時の、その瞬間の、空気のうまさをボクらは味わえない。
 ボクが一人の観察者として思うのはそこなんだ。誰かにコレを伝えようと腐心した挙げ句にいつもうまく伝えられないのが・・、その一点なんだ。
このMovieを観るにはQuickTimeが必要です
go back
筆者宛メールはコチラへ:yoshifumi@tvc-15.com