12月の雨

 田舎道の、それゆえ人も車もさほどに往来しない箇所で工事が行われている。
 なんでも道が一方に傾き過ぎており雨量が増すと必ず一方の側が水浸しになるので、緩和処置にと路肩に側溝を作っているとのコトである。
 狭い道である。
 その狭い道の両脇に数軒の民家と一軒の自動車修理工場と一軒の自転車屋があり、その自転車屋は私が頼りとしている店である。
 その自転車屋さんの真ん前を工事しているワケだから、昼間はそこに出向けない。
 なにより、その小路は我が通勤路でもあるのだけど、通行が出来ないゆえ迂回をよぎなくされる。
 工事期間はおよそ14日、2週間だそうである。
 私は毎日、その小路に真っすぐに向かい、ガードマンの立っている場所で右へそれて迂回する・・。
 それからいささかの遠回りをさせられて元の道へと戻れる仕組みである。
 だから日々、ガードマンと遭遇する。
 その若いガードマンは通行量が乏しく気合いが入らぬようである。いつも、みるからに怠惰で、ある時は携帯電話で誰かと喋っている。
 ある日は、ポケットに手を突っ込んだまま、ボンヤリ立っていたりする。
 ある日は、ブロック塀にもたれかかっていたりもする。
 右へどうぞ、左へどうぞ・・ と旗一つふる気配もない。
 ただそこに立ち、ながい一日を、憂鬱げにうっちゃっているようにも見受けられる。
 ヘルメットの下に金に近い茶髪がのぞいていて歳はおそらく20歳を1つか2つ過ぎた按配だろう。
 おそらくはガードマンの若葉マークに違いない。 カタチはなるほどガードマンのそれだけれど、態度、仕草、風合い、いずれにも初心のとまどいと、それを上回る惰性めいた怠惰が滲んでいて、およそ、職務に忠実たらんとしたトコロが見受けられない。
 彼は自転車で近づく私を物憂げに眺め、時に、眼には入ってないという風情で視線をそよがせる。
 朝から倦怠が蔓延している気配が濃厚に漂っている。
 ガードマンの制服を着ているがゆえ、余計に、その覇気のない様子がめだち、強く印象づけられるというのではなく、ただただ朦朧とした陰りとしてコチラの意識の中で、湯気のように揺蕩う。意識ある影としてモワ〜ッと、拡散も収斂もなく、ただただ、そこで揺蕩う。
 何か、この人物を動物で擬人化出来ないかしらと私は自転車をこぎつつ、ふと思う。
 マンボウ、ナマケモノ、タヌキ、ハマグリ、カマキリとアレコレ例えを持ち出そうとしてみる。
 してみたものの該当する生き物がない。
 むしろ、生き物より、作ったがいいが放置され湯を吸ってのびきったラーメンを見る、ようでもある。

 そのガードマン君が、今日は、こちらに背を向けて俯き、手を動かしている。
 チラリと眺めるに、彼はミカンの皮をむいている。
 その向こう、工事の現場では作業着の複数の連中がショベルカーの横に座り、やはりミカンを喰っている。
 午前10時の休憩のようである。
 ガードマン君にもミカンが支給されたのだろう。
 で、彼は、立ったまま少し猫背ぎみになって、こちらに背を向けてミカンの皮を向く。
 私は無言でその前を迂回する。
 葉も実も落ちた裸の寒々しい柿の木の上に、暗い雲が広がっている。
 数メートル駆けて振り返ると、ガードマン君はミカンを口に放り込んでいた。
 途端、私の眼の中に彼の顔が歪むのが映る。
 きっと、スっぱかったのだろう。
 
 ポツリポツリと雨が降りだしはじめている。
 私はいそいでペダルをこぎだし、顔をスッぱく歪める。
 12月の、冷たい雨だ。
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