よもやまに

 東京で温泉を掘ってたらメタンガスが漏出しちゃって火災になったというニュース・・ 関東一帯の地下にはメタンの層があって千葉の九十九里の辺りじゃ、あちゃらこちゃらでガスが出てて、でも住民はそのガスと親しんで、例えば風呂の火やらストーブやら焚き火やらやらに利用してるって。
はじめて聞くニュースであったから、ちょっと眼がひらいた。テレビの映像で観ると、至るところ、川やら井戸やら畑から、確かにガスが噴出していて、火を近づけるとボッと勢いよく青い炎があがるんだ。
なにやら危なっかしい気配ながら地域の方は、「これってあたりまえ」な感で悠々としてらっしゃる。
以前、NHKの番組で、地球の海底の至るところに白い氷の塊があって、それは膨大な量になるらしいのだけど、これがメタンだと紹介してた。
水溶性たるメタンが氷として封印されて海底のあちゃらこちゃらに多々膨大に転がっているらしい・・。仮に温暖化が進行して海水温度が上がったりしたら一大事。氷が溶けメタンが溶融し海底から大気に漏れだして温室効果を推進してメチャンコなことになるという危惧であった。この塊をメタンハイドプレート、という。
番組では深海から採集したその氷塊が船に上げられ、船員が手にしてる内、手の中で溶けて自然発火する映像があって、気味悪さのある怖さをおぼえたもんだった。
その昔に少年雑誌でちょっとワクワクしつつ読んだ「魔のサルガッソ海」とか「魔のトライアングル地帯」での飛行機編隊の謎の消失とか船の遭難とかとかは、一部においてこのメタンハイプレートが事故の要因かも? というクエスチョン&アンサーもその番組にはあって、メタンは非常に軽いけど密度のある気体ゆえ、これを例えば飛行機のエンジンが吸い込むや、そうでなくとも引火性が激烈な物質ゆえ、途端、飛行機はその瞬間に爆発炎上という災禍に見舞われると。海水温に異変が起きてメタンハイプレートが溶け、メタンは上昇して海上に出る。酸素よりも軽いからさらに上昇し、そこに飛行機が来ちゃうと・・。
そんな厄介なメタンに一斉蜂起されたらナンギやなと思いもしたけど、千葉の方々の悠々っぷりを眺めると、うまく取り出せば資源開発として良き有功利用もアリだなぁと思ったりもする。
が、氷塊になったメタンはいわば地球自身が密閉し封印し海底に沈下させたものではなかったか・・。

2年前の夏、知人の知友の船で瀬戸内海に繰り出したことがある。
ママカリを釣るのが目的だった。
魚をよく釣るにはある種のポイントを見定めなくちゃいけない。ママカリが群泳するポイントは幾つか点在し、自ず、そこには小さなボートや大型のフィッシングボートが群れるというコトになるんだけど、小豆島のとある湾岸近くで、この時はじめて、異様なほどに凪いだ海を知らされた。
突然に海がねっとりとした油を思わせる気配に転じ、波が一つもたたなくなる。海面は全体が重たげな色に変わり、漆黒のビロードがゆったりうごめくような、静かな寝息をたてて眠っている豊満な女の腹部が上下しているような、そんな感触になる。風がないので海面が穏やかになっている次第ながら、海面そのものは上下にゆらいでいて、その振幅は、ねっとりとし、むっちりとし、重量級のささやきのような重さを感じる。
その凪いだ海に竿を向ける。
糸の先に鉤が幾つもついている。
餌はいっさいつけない。
ただ、その糸を投げ、ちょっと待って、すぐにリールを巻く。
すると、ハッとするほどに鮮やかな銀色をしたモノが海中からあがって、くる。
大きな魚じゃない。ママカリは大きくっても15センチ前後の小さきものだ。その小さき魚が同時に4〜5匹、鉤にかかって上がってくる。
海中から大気へと釣り上げた瞬間、その全身が磨き上げた金属のように光る。眩しいほどに光る。
黒くむっちりとした水中から、一条の銀色の豊饒である。
餌を付けずとも一度海中に糸を投じれば、ほぼ必ず4〜5匹が同時にかかってくる。ボクの竿だけでなく同行の、T氏、I君、H譲、K譲・・ 皆、一様にいっせいに複数の銀色を釣り上げる。
いったい、この海中にはどれほどのママカリが密泳しているんだろうか、いっそ空恐ろしくなるのだが、その目映いシルバーの煌めきが黒曜石めいた色の海中から上がるたび、恍惚めいた惑乱をおぼえさせられた。未知で未開なものにフイに遭遇したような困惑と新鮮がその恍惚を裏打ちし、されどこれは未開でもなんでもなくって、ボクはしばし船上で茫然となった。地球の豊饒の一端を垣間見たためだろうか、それとも、暗い海中から立ち昇ってきた銀色に、天空の月を想起するような鮮烈色を思ったためだろうか。
つい最近、彫刻を買った。
寺田武弘という石の作家の、その木彫りの作品。
題は「森の精」。
この石の作家は若い頃に木彫りからスタートし、後はずっと石の作品を産んできた次第ながら、昨年末の個展でまた木を彫った。
悩ましいといえる程の曲線の見事さにボクは感服した次第なれど、先日、我が知友がこれを見るや、
「なんか作るのか?」
と言った。
ボクは弾けたように笑い、友人の肩をポンポン叩いて喜んだ。
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