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Apollonia Paper Model Museum  
 
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描写しつつも、あえてヴェルヌが書かなかったコトもあります。それを想像でおぎなっていくのは… けっこう愉しいもんです。
その1つは、例えば、ノウチラスの"母港"でしょうか。
ノウチラスを建造した秘密の島には火を放ち、建造の痕跡を消去させたものの、永久機関で動く船ではないがゆえにノウチラスは定期的に燃料を補給し、かつ船体のメンテナンスも行わなくちゃいけないワケで… 小説中、ヴェルヌはそのための基地があることを後半となる第2部第10章において明かにします。
かつて火山だった島。
数百mの屹立した崖でうがたれた噴火口の底には礁湖(しょうこ)があり、海底の洞窟で海に結ばれています。
この湖底に炭坑があるという設定で、ノウチラスは海底洞窟を通って、この礁湖に入って停泊します。



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ノウチラスは巨大で強靱なナトリウム電池を搭載して、それでモーターを廻している船です。
電池の維持と保守は必需で、原材料たるナトリウム生成のためにネモとその仲間は石炭を採取します。
ナトリウムは海水が主原料。水酸化ナトリウムを溶融させて電気分解して結晶化させるには330度の高温で長時間熱する必要があり、この加熱剤として石炭が使われるのです。
したがって、この製造にはそれなりの装置が必要というコトになりますが… ヴェルヌはその辺りについては巧妙にごまかしています。
石炭がたかれて発生した黒煙は、この島が活火山であると見せかけるコトになって都合ヨシとは書いてはいるものの、装置も装備も小説中に記述していません。

 ※ 写真:Wikipediaより 電気分解によって得られたナトリウム合金。
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されど、そこはプラントでもあり、"母港"です。
「いっさい、陸上との縁をたった」
とは云うものの、そうやって陸上たる島にシークレットな基地を持っているという所がイイのですね。
相応の大規模なものであろうとは愚考できます。
なので… 読者としては、それを想像するのが、愉しいのですな。
宿舎もあるだろう、とか。
それは、どういうカタチなのか、とか。
ノウチラスの航海が続く限りは、そこはグレードがアップしていくのではないか、とか。
船内で食するためのパンの元として、この"母港"に小麦畑もあってイイのではないか、とかとか。

 ※ 写真:小沢さとる著『サブマリン707』より、U結社の海底秘密基地。
むろん、これは悪者の基地。ネモのそれとは違うのだけども… 1つのイメージとして。

エッツェル社刊のオリジナルの『海底二万里』の挿絵はすべて木版画です。
全部で111枚。描いたのはエドワード・リウとド・ヌーヴィルの2人。
これに加えて複数の彫版師がいます。
絵によっては、その彫り師のサインもみるコトが出来ます。

『海底二万里』が出版された頃のフランスは、実は日本よりも識字率が低かったようです…。
それゆえ、2ページに1枚といった割合で登場する挿絵は、すごく重要な役割を担いました。
字は読めないけど、絵が物語ってもくれていますからね。
いわば、これは今でいうビジュアル本の先駆けでもありました。

 エッツェル社版の木版挿絵については、ペーパーモデル「かぐや with Verne's Rocket」の製品に付随する解説で詳細を記していますから… 参照ください。

右はド・ヌーヴィルの作品。
船内から海中散歩に出かけるところですね。

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ノウチラスの海中ハッチ。
本来は船の真下に位置すればいいワケで、内気圧によって海水は侵入しません。ハッチすら必要はない…。
けれど、展示される模型としては… ハッチが船体最下部にあると、見えないワケではないけども、いささか見にくいですな。
小説では上の挿絵のように、海中散歩ほか、けっこうなウエイトが占められる場所でもあるので、それであえて… 側面のやや目立つ位置に設けました。
模型としての"見所"をば、優先させた次第です。
したがって、この構造ゆえ気密室があります。
そこを海水で満たすことでハッチを開けて外に出るというカタチ。
排出にはポンプが要りますね。

ハッチが上に開くのか、下に開くのか、あるいは横に開くのか… この辺りは本模型をお作りになる皆さんにお任せです。
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船体のほぼ中央に、鉄製のボートが取り付けられています。
前記した中央階段室につながる場所です。
ヴェルヌはこのボートへの搭乗についてよく考えています。船内から直接に乗り込めるカタチです。
底部にハッチがあって、これは船内のハッチとリンクしているワケです。
本模型では底面を平底として作りますが、現実では、平底の船はダメですね。前に進まず、横に滑ってしまいます。ですから、ボートには何らかのキール(竜骨)構造があるとは思いますが… 船と一体でデザインされているというのが実に秀逸です。
ノウチラスを海面すれすれに位置させて内側から乗り込んでカバーを外し、繋留の縄なりフックなりを外せば、すぐにボートは船から離れます。
小説中、ネモはアロナクス教授に向けて、ノウチラスが海中にあるさいもボートに乗れることを説明しており、それが教授たち3人の脱出劇につながっていきます。
乗り込んで双方のハッチを閉じ、船とを結んだボルトを外すや、密閉されたボートはただちに海面に浮上…。
このボートとノウチラスは電線で繫がっていて、双方で電文を送れるとのことなので、行動範囲はさほどに広くはないようにも思えますが、電線がたぐられると自動的に船に戻れるというのも良いですな。
たぶんにこれは、グレート・イースタン号でのサイラス・フィールドから聞いた海底電線がアイデアの基盤にあるのでしょう。

小沢さとるの「サブマリン707」の2機のジュニア他…、後の搭載型の小型潜行艇は、いわば、このノウチラス・ボートの末裔ですね。
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紡ぎの天才たるヴェルヌは、たぶん、ノウチラスに熱気球を搭載させるコトも考えたでしょう。
『気球に乗って5週間』はすでにベストセラーです。
が、海洋譚にそれを加えると、いささか散漫になると思ったかもしれません。二次使用は避けたいと思ったかもしれません。
が、はるか後年の読者としては… 小さいのを1つくらい積んでいて、それで洋上で遠方を確認した… みたいなシーンがあったら面白かろう… と、勝手な想像をまた追加したりもするのです。
ノウチラスというカタチは、こういった夢想を幾らでも呑んでくれる、すぐれた"容れ物"です。

 ※ 気球とノウチラスの組み合わせは、その後の作品、いわばノウチラスのその後が描かれた『神秘の島』で、ややカタチを変えて実現しています。

 ※ 写真:映画「SF巨大生物の島」に登場の気球。もの悲しい邦題をつけられたけれど、あんがいと傑作。原作はむろん『神秘の島』。