part.2
 で、月日は流れた。
 どれくらい流れたかというと
約1ヶ月、流れた。
 一日千秋という語もあるくらいだ・・ 私にとっての
1ヶ月はとにかくやたらと・・ なが〜く思われる1ヶ月だったんだ。
 実は
「MTBエンスー講座」は古本屋で買ったのだ。刊行当時な99年の9月末購入ではなく、01年の10月の某日、古本屋の雑誌コーナーで買ったのだ。
 よもや、むねよし氏がこのような自転車を所有しているなどとは、それまで夢にも思わなかったのである。
 が、01年の10月、ついに私はその存在を知ったワケである。
 知らなければ済むコトを知ったがゆえに哀しむような事態を「知の哀しみ」という。そう云うらしい・・ だから、あるいは、この場合、それを「痴の哀しみ」と云いかえてもよい。
 ソレだ!
 知らねばそのままで済んだものを、知ったがゆえに、映画「羅生門」の、あの粗暴な三船敏郎がごとくヨソ様の女房ならぬ自転車を欲しくてたまらなくなっちまったのだ・・。
 
 まったく、たまたまながら、私は田中むねよし氏とはご縁がある。
TVC-15のキットの幾つかのパッケージデザインは氏の手によるモノだ。1/24スケールのフジキャビンは実は氏の企画でもある。アレやってもらいコレやってもらいと、実に恩恵厚くしてもらっている。
 が・・ そういった間柄であるから、全然平気で自転車の話を氏にすればイイと思うかもしれないけど、私の中のシャイな部分がそうはさせじとゼロックス・・ いわばプライベートな領域にダンコこれは思えて、こと
「カルチャー号」に関しては持ち出せなかったのだ。
 が、が・・ だがしかし、募った恋する気分に遂に私は負けてしまう・・・。
 11/12の夕刻、氏からの、むろん、別件での電話のさい、当方はついにシンボ〜たまらず、
「ぁ、あの・・ 自、自転車、カルチャー号・・」
 持ち出しちゃったのである。

 会話内容の詳細はここには書かないコトにする。
 なにしろ本人認めるトコロなオタクでエンス〜な方で、私の眼からすればハイパー・オタクでハイエンド・エンスーな方ゆえに、放っておくと、話に花咲き枝は伸びるに伸びて大樹と化すというアンバイになる。
 車の知識やら経験値やらやら、一方的に私は負けちゃうのである・・ がぁ、それでも
「カルチャー号」への募る思いはむねよし氏の思惑を越え、デカイのである。
 だから、一日千秋・・ モヤモヤとした気分がながい
1ヶ月だったのだ。
 この辺りの察しの良さがまた見事なのである、むねよし氏は。
 ヒゲもじゃな顔に似合わず、シャイでクールでビビットで優しい感触をたっぷり内包させた人なのである。九州人ゆえ酒は大酒くらうかといえば、そうでない。実は氏は呑めない方なのである。そのコトとシャイな気配とはまったく別個なものだけど、ヒトガラという意味において、氏はマンガ「ボルト&ナッツ」に登場のまんまな方なのである。
 思いやりのカタマリのようなその人物ゆえ、多分に、当方の語らずな気分を速効で見抜いたにチゲ〜ネェ〜。
「譲りましょうか?!
 フイに会話の途上、そう申されたのである。

 背景でベートーベンの「運命」のあの最初の一節が鳴っていると思いネェ。
 あるいは複数の稲妻が中央に描かれた私の周辺でピカピカピカッと光ってるような、絵を想像してチョ〜ライ。
 それっくらいの衝撃に私は息を呑み、次いで、思わずながらに、16歳の女子高生がごとく、
「うっそ〜〜?!」
「ほんとにィ?!」
 言語機能失ったまま、そうケツ上がりな絶句を吐いてしまうのであった。
 一方、はしゃぐ当方に北叟笑みつつむねよし氏は、声のトーンをば一段おとし、
「ぁの・・ ところで・・ 実はワタシの一存では譲渡できないのです〜〜」
 と、照れたモノ云いをなさるのである。
 むねよし氏・・ 愛妻家なのである。いや、恐妻か・・
 御新造の智子さんの御意見賜わらねば、物品の移動は最終決定とならぬのである。
 エライぞ!
 仲良きコトは美しきかな______
 うちの親戚の某家のテレビの上にゃ、そんなコト書いた置物があるぞ。
 ぁあ、なんかイイ感じ・・ 私は電話の向こうのマンガ家夫妻の前途明るい気配を察してコッソリ微笑んだ。
「奥さんがウンと云わんとアカンですか?」
「ぇえ、まぁ・・ じゃ、聞いてみましょうか」
 と、いった直後、むねよし氏は電話のアッチの背後に声をかけている。
 オ、オイ・・ すぐソバにいてはりまんのかァ !!
「TVC-15のハゲオヤジに・・・ 売ってもよかとぅ?」
 ォオ〜〜、夫妻の会話は佐賀方言だぁ  __(^=^)__

 このカルチャー号、アンガイと高いのである。
 それは
「MTBエンスー講座」の氏の記述で、カード決済した旨書かれているから判ってはいた。
 が、高いにもイロイロある。
 私にとって5万以上はすべて"高額"なのである。
 いざ譲渡と決まった時、当然に無料贈呈ではないんだからね、私は幾許かむねよし氏に御支払いせねばアカンわけで、金額をば決めちゃわねばいけませんわね、当然に。
 万が一、カルチャー号が68万5千円なら・・・ たとえ半額で譲渡してもらったとしても32万7500円を工面しないといけない。
 購入は氏の結婚の直後であるらしい。
 96年の頃だ。
 で、なるほど、むねよし氏の当時の購入額はたしかに高額ではあった。あったけれど、メチャ法外という次第でもなかったので、ちょっと安心した。
 そこで、譲渡プライスを相談。
 スッタモンダなし。
 切りのよい数字で、
カルチャー号は私のトコロに来るコトになった。
 ウフ。
 輸送費はむねよし氏が負担してくれるというのも嬉しい。
 この喜びを岡山弁でいうならば、
「わしゃァ、でぇれ〜ウレシイがぁ!!」
 というコトとなる。巷では某岡山県出身のミステリー作家が、前置詞的慣用句としての「ぼっけ〜」を多用なさっていると聞くが・・ いまどきの岡山市民にゃ、それはかなり死後なんだぞいなワケで、現地じゃもっぱら、

「でぇれ〜」
 
と、モノスゴイと思われる事象をさしてそう云うんだぞ。

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