9番通路はバリアーフリー


40年前に、バリアーフリーという単語があったのかどうかは知らないけれど、たぶん、日本では、単語が意味するところでの認識はなかったように思えます。
その40年前に、バリアーフリーになってる構造物というのをボクが見たのは、ひょっとしたらこれが初めてなのかも知れません。
発射台。9番アームの通路です。
地表からおよそ100mばかり離れた高みにある宇宙飛行士の搭乗通路。屋根のない吹きさらしの通路です。
エレベーターを降りた宇宙飛行士はこの通路を通って、ホワイトルームと云われた司令船搭乗口に向かいます。
はじめて、この通路付近の写真を見たさいには、垂直に立っている塔の中で、ここだけ、通路が傾斜しているもんだから、
「あれ?」
てな違和感をおぼえたもんです。
カメラのレンズのせいで傾斜してるように見えるんじゃないかな… と訝しんだものです。
発射台という堅牢で精緻な構造物はいわば全てが90度の角度を持ってるような、何もかもがピシッとした水平と垂直を保っていると思っていたものですから、錯覚かしら? と思ったワケですな。
9番アームのサイド3側の通路があえて傾斜して作られたものという事を知ったのは、それからだいぶんと経ってからです。

1つの理由として、搭乗直前での転倒防止ですね。
宇宙服を着た飛行士達が段差のある場所に直面するのは、唯一、移動のためのステップバンへの乗降時だけです。発射塔では階段を用いない。

もう1つは、緊急にさいしての脱出のさい、あの透明なバブル・ヘルメットを含むフル装備状態でもって駈ける事が出来ること。
カウントダウンがはじまっている発射台には誰1人いません。1番に近い所にいるのは緊急時を想定して配置された装甲車で、これとて800mも先。3人の飛行士は自力で脱出しなくちゃいけません。
それも迅速に。猛速で。
この緊急脱出は、TVシリーズ「FROM THE EARTH TO THE MOON」の第2話の巻頭で描かれていますね。
通路の端に、通称「スライドワイヤー」と呼ばれた緊急脱出のための装置があります。そこまで駈け抜け、地表と結ばれたワイヤーにフックをかけて、一気に滑り降りる…  ボクらの感覚じゃとてもマネ出来ないワザですけどね。
35階建ての高層マンションからワイヤーを伝って降りろと云われでも… とても出来ません。

この一連の動作をスムーズに行なうための、段差なしのバリアフリーなのが、この9番アームの特徴です。
打ち上げ本番時での、この通路を含む発射塔内での情景を、コリンズさんだったか、オルドリンさんだったか忘れたけども、
「ちょっと不思議な感覚だったよ」
と語ってらっしゃいますね。
いつもなら作業員が多数いる塔は、打ち上げのためのわずかの人員しかいなくて静まり返っていて、そこをエレベーターで登って、通路を渡って司令船に向かうさいの感覚を語ってるのだけども、壮大な旅のスタート時に誰もいない静かな塔にいる自分というモノのカタチに、ちょっとした奇妙をおぼえられたようです。
アポロ8号でのジム・ラヴェルさんも、打ち上げ直前のこの通路での感想を、
「こりゃ本当なんだな!」
と、畏怖の念をしみじみ感じたと語っているようです。

このペーパーモデルでは、緩やかな傾斜を持つ9番通路を再現しています。コリンズさんだか、オルドリンさんだかが味わった、そしておそらくは多くのアポロ計画の飛行士が味わったであろう、旅立ちの緊張を模型で味わっていただければと思います。(o^_^o)
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